「お前はトークが下手すぎる。もっと磨け」

 これは、同じバンドのメンバーだった伊織殿(いおりどの)が今も覚えている、桜塚やっくんからの言葉だ。2013年、桜塚やっくんはバンドのイベントに向かう途中に起きた交通事故で亡くなった。その時、伊織殿も同じ車に乗っていた。

 世間に衝撃を与えた大きな事故だったこともあり、ネット上では「やっくんは伊織殿をかばってなくなった」という根も葉もない噂が広まり、「あいつのせいだ」「お前が死ねばよかったのに」という心ない言葉も届いた。

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 しかし、その後も伊織殿は音楽活動を続ける。やっくんが口にしていた「武道館ライブ」の夢を実現するべく、ステージに立ち続けた。2度の大病を経験し、さらなる人生の試練に直面した伊織殿。食べていくため、最終的に選んだ武器はやっくんから受け継いだ「女装」だった――。

 その美貌が度々SNSで話題になる女装を始めた理由や裏側、やっくんへの今の想いなどについて詳しく伺った。(全4回の4回目/最初から読む)

伊織殿(いおりどの)さん ©佐藤亘/文藝春秋

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女装を武器にしようと決めた理由

――甲状腺がんの手術をした後、YouTubeでご活動を始められていますね。

伊織殿さん(以下、伊織殿) YouTubeに動画を投稿し始めたのは、がんになった2019年です。「もしかしたら死ぬかもしれない。それなら生きた証を残したい」と思って、自分で編集した動画を上げました。

 音楽活動の方は、2020年の初め頃に復活ライブも始めたんですが、今度はコロナ禍で音楽活動ができなくなった。収入もなくなって、「YouTubeを本格的にやるしかない」とライブ配信を始めたんです。

――配信では、視聴者に向けてどんな姿を見せようと考えましたか。

伊織殿 音楽ができなくなって、「自分にある武器は何やろう」と考えたんです。長年やってきたものを使うなら、女装しかないと思いました。これでやっていけるという確信があったわけではありません。でも、女装で何かをするならYouTubeだろう、と。

女装姿の伊織殿さん(写真=本人提供)

 最初の頃の動画は、メイクが今とは全然違うので、ほとんど非公開にしています(笑)。一度、今まで覚えてきたメイクをリセットして、学び直したんです。