「お前はトークが下手すぎる。もっと磨け」

 これは、同じバンドのメンバーだった伊織殿(いおりどの)が今も覚えている、桜塚やっくんからの言葉だ。2013年、やっくんはバンドのイベントに向かう途中に起きた交通事故で亡くなった。その日、伊織殿さんもやっくんが運転する車に同乗していた。

 テレビ番組『エンタの神様』(日本テレビ系)で、セーラー服姿の「スケバン恐子」として大ブレイクしたやっくんはその後、TBSの音楽番組『MusicBirth+』でメンバーを募集し、全員が女装するバンド「美女♂menZ」を結成。

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 そのオーディションに合格し、ベース担当として加わったのが伊織殿だ。歌手を目指して上京したばかりの彼にとって、全てが初めてのこと。やっくんにお説教をされるたび、「急に言われても、できるわけないやん」と心の中で反発していたという。

 あれから13年。やっくんの言葉は伊織殿の中でどう変わったのか。二人の出会いから、事故の日、その後の活動までを聞いた。(全4回の1回目)

伊織殿(いおりどの)さん ©佐藤亘/文藝春秋

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オーディションで「ボーカルはアタイだよ!」と言われ…

――人前で演奏をするようになったのは、いつ頃からですか。

伊織殿さん(以下、伊織殿) 高校生の頃からです。地元のスナックなどで「流し」をやったり、ストリートライブをしたりしていました。歌で売れたくて関西から東京に来て、上京後もアルバイトを転々としながら路上で歌っていたんです。

 そんなとき、TBSの音楽番組でやっくんを見たんですよ。バンドのメンバーを募集していて、「こんなこともやっているんや。受けてみよう」と思いました。

――選ばれたバンドメンバーは、やっくんと同じく女装してパフォーマンスすることになりましたが、応募したときからそのつもりだったのですか。

伊織殿 それが、募集要項をちゃんと見ていなかったんですよ。「桜塚やっくん」という名前を見ただけで応募して、まさか自分まで女装するとはまったく思っていませんでした。やっくんはメンバーをプロデュースする立場で、僕が歌わせてもらえるんじゃないかと思っていたんです。

――オーディションでは、やっくんとどんな話をしましたか。

伊織殿 「バンドではどんなことをやっていきたいですか」と聞かれて、「ボーカル志望です!」と答えました。そうしたらやっくんに「ちょっと! ボーカルはアタイだよ!」ってすかさず突っ込まれて(笑)。

©佐藤亘/文藝春秋

 オーディションの実技でも、僕はギターを弾きながら歌っていたんです。やっくんは「なんでこの子、歌っているんだろう」と思っていたみたいですね。

――募集内容を改めて知ったのはいつだったんでしょうか。

伊織殿 次の選考に進めるというメールが来たときです。そのとき僕はパチンコをしていて、「合格した!」と思って打ちながら読んでいたら、次は女装メイクの選考だと書いてある。「なんでやねん、そんなもん受けるか!」と思いました。

 でも、そこで「待てよ、これもチャンスかもしれない」と考え直したんです。その日はパチンコに負けて帰りましたけど(笑)。後日、知り合いの女の子にメイク道具を揃えるのを手伝ってもらいました。当時はひげが濃くて、それをとにかく隠したかったので、最初に買ったのは、コンシーラーでしたね。