SNSをわかせた「流れるような土下座」、『ブラッサム』でも…

 2016年の『お義父さんと呼ばせて』の「流れるような土下座」もSNSをわかせた。渡部が演じたのは、土下座などしそうにないスタイリッシュな一流総合商社の役員。それが第4話で土下座する。土下座というと汗と涙の無様な姿という先入観があるが、渡部のそれはとことんクールでスマートだった。

SNSをわかせた「流れるような土下座」 『お義父さんと呼ばせて』公式Xより

『ブラッサム』第7回の清治の土下座も実に上品だった。腰から折り、背筋はしゅっとまっすぐ伸びたまま。

 ある時期から渡部のモノマネがネタにされることが増えたのも、クールでスマートでジェントルな、ちょっと視聴者から遠い存在だった彼を身近に感じさせる効果をもたらした。

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『ケイゾク』を撮った堤幸彦監督は今年公開の映画『hinata』で俳優に渡部のモノマネをさせていた。ちょっと空気が漏れたような、滑舌がやや悪そうな発声が独特の色気の一因であるが、笑いの要素にもできたのだ。だが『ブラッサム』の清治の怒声は滑舌もはっきりして迫力があった。

 2010年代以降になると、少し影のある昭和のムードはテレビドラマや映画で主流ではなくなっていき、違う側面――ポップで笑いのあるものが求められるようになっていったのだと思う。渡部はそれにもしっかり対応してきた。先述の『acteur』の取材で「今までにない役を演じるために、ボイストレーニングもしていると語っていた。その努力がしっかり成果を生んでいるのだ。

主人公・珠と清治 『ブラッサム』公式Instagramより

 1990年代から続く長い旅を経て、『ブラッサム』でかつての渡部篤郎が帰ってきたように思えたのは、明治時代を舞台にした物語だからだろう。現代劇では居場所を失いつつあった影や狂気も、明治の物語の中でなら存分に生きる。本人が言うように、求められるものを的確に演じる素養が、彼のなかに確実にあるのだ。明治〜昭和にかけて生きた人間を『青春の門』や『橋のない川』などで演じてきた積み重ねが。

 やっぱり伝家の宝刀。いざというとき力になるべく、磨き続けているのだろう。

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