恐怖を煽る「読解力ビジネス」

 しかし、そういうストーリーによって恐怖や危機意識を煽るのとセットで、人々は「読解力ビジネス」に誘導されてきた。

 全国紙における「読解力」をタイトルに含む記事数は2010年代前半になぜか急増している。日本の15歳のPISA読解リテラシーの結果は2006年調査(2007年発表)で15位と底を打ったが、2009年調査(2010年発表)、2012年調査(2013年発表)では順位は持ち直している。順位が改善されているのだから、そこまで騒ぐ必要はないはずなのだ。

 はて、なぜだろうか? そう思って2010年ごろから急増した記事の内訳を見ていくと、理由はすぐにわかった。

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 ベネッセコーポレーションと朝日新聞社が2011年5月を初回とする「語彙・読解力検定」を実施するにあたって、朝日新聞紙上に頻繁に関連記事を掲載し、全国各地で行われる試験会場の案内なども逐一記事化していたのである。これによって「読解力」を含む記事が増えた。

 この検定はおもに高校生、大学生、社会人を対象に、実社会や高等教育で必要となる「論理的に情報を処理し、表現する力」(読解)を測ることを目的とし、「語彙力」を読解力の不可欠な要素だと位置づけていた。この検定のスコアは大学の成績や就職活動における筆記試験の結果と高い相関がある、というのがウリだった。

 かくして私たちは「読解力」についてやたらと目にするようになった。新聞記事はYahoo!ニュースそのほかのネットメディアやニュースアプリにも転載される。だから朝日新聞の紙面に閉じて増えたわけではない。ウェブ上のニュースとしてもこの時期に大量に投下された。読解力騒動、多くのひとたちが読解力の動向が気になってしかたがない状態は、企業によってつくられたものである。

 新聞が「読解力が下がっている」と騒ぎ、自ら教育産業の著名なプレイヤーと組んで読解力をテーマにした検定ビジネスを始める。マッチポンプだ。

 ただ、ベネッセと朝日の語彙・読解力検定は2018年に終了する。検定自体は定着しなかった。朝日は手を引き、ベネッセは「Literas論理言語力検定」という、「読解」を含まない名前のテストにリニューアルし、単独実施に移行した。

 するとPISAの発表がない年の「読解力」を含む主要各紙の記事数は10~20本台に落ち着いていく。