スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作『ディスクロージャー・デイ』が遂に日本でも劇場公開された。人類と地球外生命体の遭遇。その同じテーマを描いた異色の配信映画もこの機会に併せて見ておきたい。『誰も助けてくれない』(ディズニープラスで配信中)は、作品尺93分で「台詞がほぼ無い」という不思議な味わいの宇宙人ムービーだ。

 主人公ブリンは、田舎町のさらに町外れで独り暮らしをするうら若き女性。鏡の前で笑顔を練習してから町へ出るが、なぜか住民たちの視線は冷たい。どうやら彼女の居場所は郊外のこの家にしかないようだ。

 ある夜、物音で目を覚ます。誰かが家の中にいる。息を潜めて様子を窺うと侵入者は人間ではない。大きな頭に黒い目。あの、いかにも宇宙人(グレイ)という姿だ。慣れ親しんだ自宅が隠れ場所を探す迷路になる。助けを求めて町へ出ても、彼女を待つのは住民たちの“拒絶”。一体、彼女は何をしたのだろうか。

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 宇宙人との命懸けのかくれんぼの合間に彼女の過去を示す断片が映る。一緒に写真に写る人は誰? 手紙の宛先は? 物音に耳を澄ませ怯える彼女の表情と画面の隅々に目を配る。台詞が乏しい分、目が否応なく働き始める。観客が自ら手がかりを探す。台詞で説明されないからこそ観客は作品の世界へ没入するのだ。ここに演出の妙がある。

 本作のブライアン・ダッフィールド監督は初めから「台詞無し」を狙ったわけではない。脚本を書き進めてふと彼女が話していないことに気づいたという。共同体を求めながら自分にはそこに属する資格がないと思っているブリン。話し相手がいない彼女の孤独が必然的にこの手法を生んだ。

 その設定を支える主演のケイトリン・デヴァーの演技も素晴らしい。監督も

「彼女は目で独白できる」

 と評しているが、出色は彼女の“息遣い”。恐怖で呼吸が乱れる。見つかるまいと息を殺す。緊張が解け、また息が漏れる。言葉に頼らず繊細な息遣いの変化でブリンの心境を巧みに表現する。こちらも息を詰めて見ていると、いつの間にか台詞の少なさを忘れてしまう。“沈黙”がこんなにも雄弁なのかと気づかされる。

 宇宙人に立ち向かう中で、やがて物語は彼女の孤立の理由に迫っていく。冷たい視線を送る住民だけでなく、彼女自身も自分を許せないでいた。孤独の奥には過去の“ある出来事”への強烈な罪悪感があったのだ。

「ごめんなさい、モード。ごめんなさい」

 ほぼ言葉を発しない彼女が口にしたのは、助けを呼ぶ言葉ではなく幼なじみのモードへの謝罪の言葉。この短い台詞が孤独の真相を解き明かし、これまでの“沈黙”を別の意味へと変える。そして、それが自分自身を許すための入口となる。

©佐々木健一

 さらに『誰も助けてくれない』という題名まで違った響きに聞こえるようになる。敵だったはずの宇宙人との遭遇が彼女を思いがけない新たな“居場所”へと導く。それは謂わば“奇妙な幸福”。だが、彼女にとっては救いなのかもしれない。誰も助けてくれなかった彼女を最後に救ったものは何だったのか。観客の想像力を掻き立てる宇宙人映画の枠に収まらない一作だ。

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『誰も助けてくれない』
ディズニープラスで配信中
https://www.disneyplus.com/ja-jp/browse/entity-9e96f51e-6806-4306-9773-e96b68d25305

文・絵/ささきけんいち 1977年生まれ。TVディレクター・ノンフィクション作家。著書に『辞書になった男』、『「面白い」のつくりかた』など。プロデューサーを務める『未来予測反省会』シーズン2が放送中(NHK総合/毎週火曜23:00)。