もしこの事件をサスペンスドラマの脚本にしたら、「いくらなんでも出来すぎ」とツッコまれるかもしれない。『ミシェル・ハドリーに起きたこと』(ネットフリックスで配信中)は、犯罪ドキュメンタリーを見慣れた人ほど翻弄される衝撃の実話だ。
発端は2016年、米カリフォルニア州アナハイム。連邦保安官補のイアン・ディアスと新妻アンジェラに執拗に脅迫メールが届く。双子を妊娠しているという妻を標的に暴力や殺害をほのめかす内容だ。さらにアンジェラになりすましてネット掲示板に自らをレイプ願望の女性と書き込み、夜中に自分を襲い、抵抗しても構わず続けるよう懇願する内容が投稿される事態に。
そして事件が起きる。アンジェラが何者かに背後から襲われ、首を絞められたと通報。脅迫犯として疑われたのは、イアンの元婚約者ミシェル・ハドリー。警察は彼女を逮捕し問う。
――メールは君が書いた?
「書きました」
メールを書いたことをあっさりと認めるミシェル。元恋人を奪われた女が幸せな夫婦に復讐する。分かりやすい構図だ。警察官のボディーカメラ映像は恐怖と怒りに震える夫婦の姿を捉えていた。疑う余地もなく事件は一件落着かと思いきや、そうは問屋が卸さない。
突然、物語は3年前の2013年に遡る。ジェイソン・レイバーンという男が金髪美女との出会いを語り始める。弁護士だというセクシーな彼女の名は、アンジェラ。そう、後に脅迫被害を訴える彼女だ。すぐに同棲するようになり、衝撃的な告白をされたという。
「(アンジェラが)子宮頸がんのステージ4と知らされた」
だが、程なくして彼女の病に疑いが生じる。通院は単なるホクロの除去。化学療法で髪を失い帽子を被っているのも見せかけだった。
「あの女は皆を騙してる!」
ジェイソンは自分と同様に騙された友人を自宅に集め、彼女を問い詰める。衆人環視の中、嘘がバレて逃げるように去るアンジェラ。
「このウソつき女!」
病気も職業も全て嘘。ならば3年後のこの事件は? 夫のイアンもこう言い出す。
「双子(の妊娠)は嘘だった」
アンジェラが持っていた双子の超音波画像はネットで拾った偽物。被害者と加害者が入れ替わるどんでん返し。最近の犯罪実録モノではよくある展開だ。やがて黒画面にテロップが表示され、事件のその後が伝えられる。アンジェラは虚偽通報などの罪を認め懲役5年の有罪判決を受け、イアンとの婚姻も解消したという。犯罪ドキュメンタリーではお馴染みのエンディングを思わせる画面が流れる。
ところが、物語はここで終わらない。この事件には真の“黒幕”がいるのだ。それが誰かは伏せよう。ミシェルが犯人でないなら、あのメールを「書きました」と即答したのは何だったのか。不可解な断片がおぞましい真相と結びつき、戦慄することとなる。本作は観客の先入観が暴かれてゆくサスペンスでもあるのだ。
出来すぎた脚本のようにも感じられるが題名の通り、これはミシェル・ハドリーという一人の女性に実際に起きた悲劇。これほどの目に遭いながら同じような境遇の女性へ向けて自らの経験を語る姿に胸を打たれる。
INFORMATIONアイコン
『ミシェル・ハドリーに起きたこと』
ネットフリックスで配信中
https://www.netflix.com/jp/title/81923353
文・絵/ささきけんいち 1977年生まれ。TVディレクター、ノンフィクション作家。著書に『辞書になった男』、『「面白い」のつくりかた』など。プロデューサーを務める『弾丸!空港トンボがえりツアー』シーズン3が11/6(金)から毎週金曜20:00~(NHK BS)放送。




