極右政党の台頭に対し、中道保守政党が有権者の不安に応えるため、より厳しい移民政策などを打ち出して支持を取り戻そうとする。これは政治の定石とされてきた。
しかし、現代ドイツではその常識が通用していない。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進を前に、中道右派の保守政党「キリスト教民主同盟(CDU)」はAfDの政策を模倣して右傾化。だが、その結果は支持者の奪還どころか、AfDをさらに勢いづかせ、国全体が右へと傾く最悪のシナリオだった。なぜ、起死回生を狙った一手は、自らの首を絞めるだけの“悪手”となったのか。(全2回の2回目/はじめから読む)
(初出:「文藝春秋PLUS」2026年9月24日配信)
「AfDの勝ち」ではなく「既存政党の負け」
「今回の選挙は、AfDが勝ったというよりも、むしろ既存政党が負けたという印象が強いです」
ドイツ出身の文筆家マライ・メントライン氏は、AfDが43.8%の得票率で第一党に踊り出たザクセン=アンハルト州の選挙結果をこう喝破する。今回の選挙では、これまで投票に行かなかった層がAfDに流れただけでなく、前回まで保守党(CDU)を支持していた有権者のうち、実に21%がAfDに乗り換えたというデータがある。
なぜ、これほど大規模な支持者離れが起きたのか。マライ氏は「既存政党はもはや、人々のニーズに応えられなくなっているのではないでしょうか」と指摘する。年金改革は高齢者ばかりを優遇し、現役世代には厳しい。自動車産業のEVシフトは遅れ、経済は停滞。エリート層や既得権益ばかりが守られ、一般市民は「裏切られた」「自分たちのことを見てくれない」という感覚を強めていた。その不満の受け皿となったのがAfDだった。
