ドイツで起きている政治的変化は、若者の意識変化に如実に表れている。数年前まで環境政党「緑の党」を支持していた若者たちが、なぜ極右AfDや極左政党に流れているのか。文藝春秋PLUSの番組「+RONTEN」で、ドイツ出身の文筆家・マライ・メントラインさんと東京女子大学教授でドイツ・ヨーロッパ近現代史を研究する柳原伸洋さんにより背景が詳しく語られた。(全2回の2回目/はじめから読む

【ドイツは日本の未来か?】「移民国家ドイツ」と「島国ニッポン」移民難民問題では土台が違う|独裁政権を求める声も?|政治不信の背景にある物価高、政治不信とZ世代の怒り

(初出:「文藝春秋PLUS」2025年9月28日配信)

ドイツを襲う急激な物価上昇

 現在のドイツ社会の雰囲気について、柳原さんは「とにかく物価高で、お金や値段のことを常に考えて生きている」状況だと説明する。

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「家賃がどんどん上がるわけです。あと、外食がとても高くなった」とマライさんも証言する。

「特に2022年以降ですが、一気に物価が上がり、光熱費もものすごく高くなっている」

左から柳原伸洋さん、マライ・メントラインさん

 このような生活への圧迫が、「疲れというか、日々の生活に必死」な状況を作り出している。その結果、「緑の党のように中長期的な未来の環境を考えるより、やや短期的な思考を持つ人が増えてきている」と柳原さんは分析する。

若者が体験した「難民への恐怖」

 若者がAfDを支持する背景には、より具体的な体験がある。柳原さんが紹介したドイツの雑誌のインタビュー記事によると、ある若者が通学路での体験を語っている。

「学校から帰ってくる際、ちょっと暗くなった道で人とすれ違いますよね。田舎でも何人かはすれ違う。その時にドイツって基本的にみんな挨拶するんですよね。グーテンタークとかグリュスゴットとか」

 

 挨拶は「敵か味方かを認識する機能もある」重要なコミュニケーションだが、「そこで挨拶が全く通じないことが身近にあった時に、初めて自分は怖いと感じた」ことから、「難民をやめようと言ってるようなAfDを支持した」という経緯がある。

緑の党→AfDへの転換

 この変化は統計にも表れている。マライさんは「数年前の若者たちの投票先を見ると緑の党などが人気だった。緑の党は名前にもあるようにグリーンエネルギーを進めようとしている政党」だったと振り返る。

「それがいつの間にか変わってしまって、この間の総選挙の時に若者たちが一番入れていたのがAfDと極左。極右と極左なんですよ。どうしたの、と驚いた大人がたくさんいたんじゃないかな」

 

ポピュリスト政党の巧みなネット戦略

 この急激な変化の背景には、巧妙なネット戦略がある。

「ポピュリスト政党がうまいのがネット戦略です。切り抜き動画ですね。極右も極左もの両方。国会答弁で激しめなスピーチして、それをうまく切り抜いて、TikTokやYouTubeショートなどにアップすることによって、若者たちに届ける」

 

 なぜこうした動画が刺さるのか。マライさんは若者たちの潜在的不安を指摘する。