最終的に彼女は、経験を生かせる別の医療関係の会社へ転職しました。しかし、給与や待遇が大きく上がったわけではありません。転職後に会った彼女は、「結局、自分にはこれしかないんだよね」と、寂しそうにつぶやきました。新しい可能性を探すための転職が、かえって自分の限界を突きつける経験になってしまったのです。

転職によって環境も収入も好転する人は、もちろんいます。ただ、会社を替えれば、お金の不安が自動的に消えるわけではありません。給料も評価も居場所も、一つの勤務先に預ける構造は変わらないからです。しかも転職は、新たな勤務先に入社するまで人間関係や働き方の実態が分からないリスクがあります。新しい環境が自分と合わなかったときにやり直す心身の負担も、年齢とともに大きくなります。

だからこそ、今の会社を辞める前に、社外で自分の経験が誰に、どんな形で求められるのかを小さく試す。その反応を確かめてから次を選ぶほうが、40代には現実的なのです。

ADVERTISEMENT

看護師歴30年以上でも起業断念の理由

長年の専門性があれば、起業できる――。そう思う人もいるでしょう。私の友人にも、看護師として30年以上働き、親の介護から看取りまで経験した女性がいました。その知識を生かし、介護する人の心を支え、後悔のない介護を広めたいと、フリーの看護師として独立したのです。社会に必要とされる、意義のある仕事でした。

ところが、独立した瞬間から、看護とは別の仕事が押し寄せました。サービスを知ってもらうための発信と集客、申し込みにつなげる営業、経理、価格設定。看護師としてどれだけ優秀でも、事業を続ける経営や事務のスキルが自動的に備わるわけではありません。サービスの認知も売り上げも思うように伸びず、生活費への不安が日ごとに重くなり、彼女は病院勤務に戻りました。

これは、彼女の志や能力が足りなかったという話ではありません。「人の役に立てる専門性」と「それを事業として継続する力」は別物だということです。会社員の給料を先に手放すと、自分が提供するサービスや商品に十分な需要があるかを試す時間がなくなります。焦りが強くなれば、安い価格で仕事を引き受けたり、本来やりたかったことから離れたりもしやすくなります。