私たちが日々SNSに書き込む感情やつぶやき、そして何気なく登録した個人情報――それらはすべて、世界一の大富豪が仕掛けた「巨大な実験」の燃料だったのか。イーロン・マスク氏によるツイッター買収劇から始まった、徹底的な「データの囲い込み」。裁判所の管轄すら手玉に取る狡猾な戦略の裏で、彼は一体何を目論んでいるのか。日経BPの新刊『データで徹底解剖 イーロン・マスク帝国』より一部抜粋してお届けする。
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知られざるXの威力
「Xは人類の集合的意識だ」
23年7月にツイッターをXに改名した後のマスク氏が、自身のXにこう投稿した。多くの人はこの発言を、気まぐれな買収劇に付随した「大言壮語」の一つとして受け取ったかもしれない。しかし、データという観点から見ると、これは大言壮語ではなく、すでに動き出していた戦略の一部だったと言えそうだ。
というのも、マスク氏が手に入れたのは、5億人超が利用する発言・思想・感情のリアルタイムデータベースだ。このデータをグロックの学習に転用する構想は、買収前から描かれていたと見るのが自然だ。そして、その後のマスク氏の行動から、マスク氏がどれほどXのデータを、他者と絶対に共有したくない貴重なものだと考えているかが浮かんでくる。図表3-04は、Xに流れ込むデータの全体像と、それがグロックへと転用される構造を示している。
生体情報から発言・思想データまで、5種類のデータがXという「ダム」に集約され、xAI(グロック)へと一方向に流れていく。この流れを念頭に置きながら、マスク氏が買収後に打った一連の手を見ていきたい。

