グロックに必要なデータを吸い上げる仕組みへ
最初の一手は、23年2月。Xはそれまで無料で提供してきたAPI(外部のアプリやサービスがXのデータにアクセスするための接続口)を突如、有料化した。月額100ドルから、大規模利用では数万ドルにまで跳ね上がるプランだ。研究者や学術機関向けの無料枠は同年3月に完全廃止となった。
長年ツイッターのデータを使って研究を続けてきた学術機関、ジャーナリスト、災害情報を集約するボランティア団体など、あらゆる外部利用者が一夜にして締め出された。だがマスク氏の論理は一貫していた。データは資産。それを使ってAIを鍛える競合他社に、みすみす資産を渡す理由はない、ということ。API有料化は「資産価値のあるデータは売り物だ」という宣言であり、xAIへの転用に向けた囲い込みの第一歩だった。
同年9月には、さらに踏み込んだ手が打たれた。Xは新しいプライバシーポリシーを施行し、有料会員(Xプレミアム)が任意で提供した場合に限り、顔画像と政府発行の身分証から生体情報を収集できる仕組みを整えた。さらに採用機能を通じた職歴・学歴の収集も可能になった。
「アカウントと実在の人間をひもづける」というのが公式の説明だったが、収集されるデータの種類を見れば、その射程の広さは明らかだ。閲覧・いいね・拡散といった行動・関心データに加え、アプリや投稿から取得できる位置情報、そして採用機能を通じて入手できる職歴・学歴―これらが一つのプラットフォームに集約される。顔画像と実名、職業、居住地、思想がひもづいたデータセットになり得るXのデータは、グロックの訓練データとして他に類を見ない密度を持つ可能性がある。こうした動きを時系列で整理したのが図表3-05だ。
22年10月の買収完了から25年のxAIとのデータ統合まで、わずか3年間でデータの囲い込みが完成していく過程が見えてくる。
次の一手は法廷措置だった。23年7月、XはイスラエルのIT企業、ブライト・データ(BrightData)を提訴した。ブライト・データはウェブ上の公開情報を自動収集するスクレイピング・ビジネスを手掛けており、Xのデータも取り扱っていた。「Xのデータはすべて独自資産であり、無断収集は契約違反だ」というのがXの主張だった。
24年1月、判事は口頭弁論でXの弁護団に「あなた方はインターネットを所有しているわけではない」と言い放ち、同年5月、Xの訴えを退ける判決を下した。判決文も手厳しかった。「ソーシャルメディア企業が自ら公開したデータを独占する権利を持つとすれば、情報の独占を生み出し、公益に反する」と結論づけた。
