Xはその後、修正した訴状で再提訴し、25年に条件非公表で和解が成立した。勝訴はできなかったが、この訴訟で「Xのデータに無断で触れれば法廷に連れて行く」というメッセージを業界全体に送ることには成功した。
裁判管轄もテキサスへ集約
そして24年11月、最も巧妙な一手が打たれた。Xが利用規約を改定し、ユーザーがXを訴える場合の裁判管轄を「テキサス州北部地区連邦裁判所またはタラント郡州裁判所のみ」に限定したのだ。
これがなぜ巧妙なのか。もともとサンフランシスコに本社を置いていたツイッターは、マスク氏による買収後にテキサス州オースティンへ移転している。カリフォルニア州の厳しい規制環境を嫌ったためとされるが、その移転先のオースティンが属するテキサス州西部地区ではなく、あえて「北部地区」を指定した。カリフォルニアからテキサスへ、そしてテキサス州内でもさらに自社にとって望ましい司法環境へと、段階的に移行していったのだ。
というのも、テキサス州北部地区には、連邦判事のリード・オコナー氏がいる。ジョージ・W・ブッシュ元大統領が任命した保守派の判事で、マスク氏が起こした複数の訴訟を担当してきた人物だ。そしてオコナー判事はテスラ株を1万5000~5万ドル分、保有していることが財務申告書から明らかになっており、米公共ラジオ放送のNPRや米誌ローリング・ストーン(Rolling Stone)がこの利益相反の可能性を指摘した。オコナー判事はマスク氏が起こした別の訴訟では自ら辞退しているが、テスラ株と直接利害関係がないと判断した案件では担当を続けている。
新しい利用規約の構造も非対称だ。ユーザーがXを訴える場合はテキサス州北部地区の当該裁判所のみ。しかしXがユーザーを訴える場合は「ユーザーが居住するいかなる管轄の裁判所でも可」とされている。訴える側のXは全米どこでも戦えるが、訴えられる側のXは指定の土俵でしか戦わない―。この発想は、データを外部から遮断してグロックだけに集中させるという戦略と、根底でつながっているのだ。
生体情報、職歴・学歴、位置情報、行動・関心データ、そして5億人超分のリアルタイムの発言・思想データが、すべてXという一つの「ダム」に流れ込み、そのままグロックへと注がれていく。マスク氏が「人類の集合的意識」と呼んだものは、北極星へ向かうグロックの燃料だったのだ。
