怒った理由は…
その日、僕は半袖の服を着ていたため、入れ墨が見えていました。そのことを怒っているのです。
総長は決して入れ墨そのものを問題にしていたわけではありません。大切なのは、それを見た他のお客さんがどう感じるかということでした。
せっかく楽しく食事をしているのに、入れ墨が視界に入ってきたら、緊張もするし、嫌な気分になって楽しめなくなってしまいます。周囲に配慮することの大切さを、総長はわざわざ教えてくれたのです。
それ以来、僕は夏でも長袖を着るようになりました。それは今でも続いています。
総長はいつもこう言っていました。
「堅気さんに迷惑をかけるな」
それは総長が繰り返し教えてくれたことでした。日常の何気ない場面でも、人との接し方でも、その教えは変わりませんでした。
僕が学んだのは、自分の行動によって周囲の人に迷惑をかけないことの大切さでした。今振り返っても、その教えは僕の中に深く残っています。
親父さんは、事務所に他の親分衆が訪ねて来るたびに、よく僕を紹介してくれました。
「こいつは昔、世話になった人の息子なんだ。今はうちの若い衆をやっている」
そう言って、さまざまな親分たちに引き合わせてくれました。
僕はそのたびに緊張しながら挨拶をしていましたが、親父さんが自分のことを紹介してくれるのがうれしくもありました。
いま思えば、親父さんは僕を単なる若い衆としてではなく、一人の人間として大切に扱ってくれていたのかもしれません。
当時の僕は若く、その意味を深く考えることはありませんでした。
