2004年に「紅雲町のお草」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、それから約20年、「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズを書き続けてきた吉永南央さん。

 本シリーズは第12巻『時間の虹』をもって一区切りを迎えましたが、今年10月、『故郷の青空 新・紅雲町珈琲屋こよみ』が新シリーズ第1巻目として発売になりました。

 新シリーズ開幕と新刊発売を記念して、吉永さんに作品についてのお話を伺いました。(第1回目)

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10/23発売の『故郷の青空 新・紅雲町珈琲屋こよみ』

きっかけは夫から譲り受けた古いパソコンだった

――まずは「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズを書き始めたきっかけを教えていただけますか?

吉永 コンピューター関係の仕事をしていた夫が、廃棄する古いパソコンをもらってきたんです。夫に「使う使う」と言ったものの、さて何に使おうか、と思って。そのとき「小説って書けるのかな」という気持ちがふっと浮かんで。

「小説の書き方」の本を買ってきて、その通りに練習もしました。テーマを三つ並べて短い物語を作ってみる、といった練習を一冊分やりきって、それで短編でも書いてみようかと。そうして書いたのが、ほんとうに最初の一作目、「紅雲町のお草」でした。

――それがそのまま受賞作になったというのは、何度聞いても驚かされます。

吉永 私もそう思います(笑)。

お草さんのモデルは、働き者のお祖母さんだった

――「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズの主人公は、お草さんという気丈なおばあさんです。お草さんのキャラクターは、どのように生まれたのでしょうか。

吉永 親が共働きで、小学校のときから一人で留守番をしていたのですが、お店を営んでいた祖母が仕事の合間に抜け出してきて、割烹着のポケットからお菓子を出して渡してくれる……ということがよくありました。そして「よく留守居をしろえ(よく留守番しときなさいね)」と言って、またお店に戻っていくんです。

 私が体調を崩して寝ているときも、「どうだえ」と顔色を見にきて、大丈夫そうだと判断したら帰っていく。さっぱりしていて、でも確かに気にかけてくれている人でした。

 会話自体はとても少ないのですが、祖母と通じ合うところは多かったです。

――さりげなく気にかけてくれるのは、お草さんと少し通じるところがありますね。

吉永 そうかもしれません。30代の終わりに個人的にいろんな悩みを抱えていた時期があって、頭の中で祖母と話すことがよくありました。お草というキャラクターは、その延長線上で生まれたのだと思います。

 でも、お草よりも祖母はチャキチャキしていましたね。お店をやりながら畑をして、近所で具合が悪い人があれば様子を見に行く。戦争から帰って心身にダメージが残り路上生活者となってしまった方も、座敷に上げてご飯を食べさせるようなことを平気でしていたそうです。家族はとても嫌がっていたらしいのですが(笑)。

 明治から大正、昭和の初めに生まれた世代の方って、ご近所付き合いが当たり前でしたよね。特別なことをしているつもりがないというか……自分が昔誰かに助けてもらったから、それを別の誰かに返しているんだという、長い時間の中でめぐりめぐっている感覚をもっていると思います。

――シリーズ第一巻『萩を揺らす雨』では、お草さんが近所の不穏な様子を気にして毎日出歩いていたら、徘徊だと間違われてしまうエピソードがありました。そのほか、シリーズを通じて、選挙や詐欺、宗教などの社会問題が日常の中にさりげなく描かれています。ややビターな読み味なのが魅力ですね。

吉永 社会の中で生きている以上、社会の問題は当然フレームの中に入ってくると思います。

 特に日本の小説は、社会的な問題を書くなら作品の真ん中にドーンと置いて書く、ということが多い印象を受けますが、こうした日常を描いた小説でも、そのまま生きていたら当たり前に社会的な問題にぶつかると思うんです。わざと外すことはせず、自然に書いていきたいですね。