「相手に踏み込みすぎない」お草さんの魅力

――お草さんはコーヒー豆と和食器を扱う「小蔵屋」を営みますが、お客さんと特別仲良くすることもなく、いつも静かに見守っています。そんな「相手に踏み込みすぎない距離感」がとても魅力的だと思いますが、これは吉永さんご自身の理想のあり方なのでしょうか?

吉永 そうですね。私にとって心地のいい距離というのが、お草の付き合い方なんだと思います。

「相手が大事だから」とギューッと抱き締めすぎると、お互い苦しくなりますよね。大事だからこそ、少しゆとりを持って「行きたいところには行って、帰ってきたくなったら帰っておいで」という距離感でいたいです。

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 好きなお店についても同じことが言えるかと。常連になっても初めて来たときのような距離感が保たれていて、でもそこに何か温かさがある……というくらいが心地よく感じます。

――このシリーズも、読者との距離がすごく近いというよりは、一定の距離を保っているようなイメージがあります。

吉永 物語の中でも、「小蔵屋」を通り過ぎていく人が多い。でも、だからといってお草との結びつきが弱いわけではないと思います。

 ずっと昔に誰かにかけられた一言を、いくつになっても忘れないことって、意外とあるじゃないですか。それが、八方塞がりで苦しいときにふと思い出して、自分を立て直す力になる。私自身も、励みになってくれる人が滅多に会わない人だったりします。遠くで一生懸命やっているその人の近況がたまに聞こえてくると、それがしばらくエネルギーになっています。

――なるほど。今回の新作『故郷の青空』にも通じる部分ですね。

〈第2回に続く〉

故郷の青空 新・紅雲町珈琲屋こよみ

吉永 南央

文藝春秋

2026年10月23日 発売

次の記事に続く 【ネタバレあり】 ある日、ランドセルを背負って帰ったら家の中で…著者が忘れられない「青空の日」の記憶