待望の最新刊は『花ひいらぎの街角』

――70代の女性、お草さんが活躍する〈紅雲町珈琲屋こよみシリーズ〉も、最新刊『花ひいらぎの街角』(2018年文藝春秋刊)で第6巻となりました。第1巻『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』(08年『紅雲町ものがたり』刊/のち現タイトルに改題して文春文庫)が10年前。そこに収録されている短篇「紅雲町のお草」がオール讀物推理小説新人賞を受賞したデビュー作ですが、それを書いた時点でシリーズ化は意識していましたか。

花ひいらぎの街角 紅雲町珈琲屋こよみ

吉永 南央(著)

文藝春秋
2018年2月8日 発売

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吉永 いえ、応募するための作品と思って書いたので、シリーズ化するとも、こんなに長く続くとも思っていませんでした。受賞後、編集部に「この話を続けて書いてみないか」とおっしゃっていただいた時には、きょとんとしてしまったくらいです(笑)。

――北関東の町で、65歳で和食器と珈琲のお店を開いた70代の女性、お草さんが町で遭遇する謎や問題と真摯に向き合っていく。その設定が面白いなあ、と。

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吉永 書いた当時、私自身も30歳を過ぎていろいろ考えたり壁にぶつかったりすることもあって。そんな時に話を聞いてくれる人がいたらいいなと思ったのが元だったかもしれません。自分の身の回りに高齢の元気な人が多かったというのもありますね。私の祖母もお草さんのように着物を着て、晩年まで働いた人間ですし。祖母も雑貨店をしていたんですけれど、お草とはまったく違いますね。祖母だったら1日で事件を解決していたと思います(笑)。私の母も義理の母も80歳を越えているのに元気ですしね。無理な設定という感じはしなかったです。

 北関東の町にしたのは、実際に住んでいたことがあって。人間関係がすごく希薄になってきた部分と、昔ながらの濃い部分という、かなり極端な部分がモザイク状態になっているのを感じ、その間を繋ぐような人間がいたら面白いんじゃないかというのがありました。

「紅雲町」という名前をDMか何かで見て、きれいな名前だなと思って覚えていた

――観音様を見上げる町が舞台ということで、高崎市なのかなとは思いますが、吉永さんご自身も北関東にお住まいだったのですか。

吉永 そうです。市内で転居していますが、高崎は長いですね。小説の中の町は、高崎と前橋を足して2で割った感じです。紅雲町というのは前橋市にある町の名前です。昔アルバイトをしている時に、DMか何かの住所に紅雲町というのがあるのを見て、きれいな名前だなと思ったんです。それがずっと頭に残っていたので小説に使いました。

吉永南央さん ©榎本麻美/文藝春秋

――お草さんのお店は古民家風で、お洒落ですよね。

吉永 第1作を書いた頃、中国茶を試飲させて茶葉を売るお店が出てきたんですよね。うちの近所にはコーヒーの試飲ができるコーヒー豆の店もあって。そこは焙煎工場も持っているチェーン店でしたが、それらのイメージを合体させつつ、コンパクトなお店を考えました。喫茶店というほどでもなく、人が買い物だけして帰る場合もあれば、ちょっと座ってコーヒーを飲んでいくこともできる店なら、会話することもあればしないこともあるという、ゆるい人間関係が書けると思いました。

――和食器やそれを組み合わせた贈答品なども素敵です。お祖母さんの雑貨屋さんと似ているんですか。

吉永 全然違います。でも、日本家屋のイメージは少し重なるでしょうか。古民家を解体してもってきた黒光りする一枚板をカウンターに使うとか、漆喰の壁というところから、想像していただけたらなと思います。自分の好みを書いているわけではないですが、ただ、器を観たり絵画を観たりというのは好きなので、その部分はお草と重なる部分があるかもしれないですね。

――吉永さんは普段、お草さんのように着物で過ごしたりとかは……?

吉永 これは言わないほうがいいかもしれませんが、成人式の時に母に作ってもらった着物に袖を通してないくらいです(笑)。大学のヨーロッパ研修と確か同じ年で成人式に出なかったんですが、母が作ってくれて。今も持っていて、たまに見て「あ、まだ無事だな」と思ったりはしています。なんて、母の耳に入ったら怒られそうです(笑)。