つまりニコンはEUVの代わりに、現行技術のArF液浸露光装置に資源を集中させる方向に舵を切った。それにダブルパターンニング(多重露光)技術を加えることで、微細化要求に対応できるはずだと考えた。
微細化の実現については、EUVという先端技術開発を中止して、DUVという現行技術に資源を集中させてそれを最大限活用する道を選択したのである。「判断にブレはなかった」という発言からは、トップ主導の判断だったふしがうかがえる。
EUVよりも450ミリへ
一方で、社内のEUV開発陣はそう簡単に撤退に納得できたのだろうかという疑問が生じる。ニコンは2003年に公式にEUV開発をスタートさせ、2007年には試作機開発を成功させ、その後もEUV開発に取り組んできたのであるから、EUVからの撤退については、組織内に賛否両論の様々な議論があったであろうことは想像に難くないだろう。
「コンコルド効果」も働いたに違いない。コンコルド効果とは、これ以上事業を継続しても成功の見込みが薄いにもかかわらず、これまで投資してきた資金や労力が無駄になることを惜しむあまり、やめにくくなるという人間に自然に働く心理的バイアスである。
さらに、もう少し継続すれば成果が出るかもしれないという楽観的な見通しも、この心理を後押しする。コンコルド開発の場合、開発途中から商業化の厳しさに薄々気が付いていながら、開発を中止できなかったところから、そのように命名された。理性よりも感情や心理に働く力である。感情に働く力は理性の力を超えるために往々にして対応がやっかいなものになりがちだ。
ニコン社内でもコンコルド効果に由来する意見が、特に技術者から出たに違いないと推測できる。この心理的で感情的な力を断ち切る役割を果たしたのが、450ミリへ戦略転換するという大義名分だったのではないだろうか。EUVよりも450ミリへ対応する方が一層顧客ニーズにかなっているという理屈が、コンコルド効果を克服し、EUVから撤退することの納得性を組織内で高めたように思える。
EUVの中止は撤退ではなく、一層顧客ニーズに応える道を選択して進むためである、という理屈だ。そういう意味では、より顧客ニーズに応えるという大義を掲げた「名誉ある撤退」だったと言うべきかもしれない。
しかしニコンにとって想定外だったのは、あれほど意気込んだにもかかわらず、450ミリの顧客ニーズが急速に萎んでいったことだ。
