「北朝鮮の狙いは韓国ではなく、米国かもしれない」
一方で、この動きには韓国の頭越しに米国を見据えた計算も透ける。北朝鮮は金与正氏の視察と談話を朝鮮中央通信で伝えたが、国内向けの労働新聞は報じていない。この動きには、韓国以外に向けたメッセージが込められている可能性もある。元労働党幹部は「北朝鮮の狙いは韓国ではなく、米国かもしれない」と語る。
北朝鮮は17年、ミサイル発射を繰り返し、米朝関係を緊張させた後、対話に転じた経緯がある。ただ、北朝鮮は金正恩氏とトランプ米大統領の関係は良好だとしている。
米朝関係そのものを再び緊張させるよりも、南北関係で緊張を演出することで、「平和の使者」を自任するトランプ氏に北朝鮮との対話の必要性を意識させる狙いがあるのかもしれない。つまり、致命的な軍事衝突を避ける安全装置をかけながら、対米交渉の呼び水とするための絶妙な緊張演出というわけだ。
兄・金正恩氏は米中ロ首脳会談の開催に意欲
妹が前線の鉄条網越しに韓国側を睨みつけ、世界の視線を軍事境界線に引きつけていたその裏で、兄はすでに次の布石を打っていた。
金正恩氏は24日、中朝国境にある中国・丹東を訪問。中国共産党序列4位の王滬寧・中国人民政治協商会議全国委員会主席と会談した。トランプ氏は、11月に中国で行われるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に合わせて、米中ロ首脳会談の開催に意欲を示している。金正恩氏は、友好関係にある中国やロシアを通じ、米朝首脳会談開催に向けた「北朝鮮が望む条件」を飲むよう、トランプ氏に働きかける可能性がある。
第1次トランプ政権当時の2019年2月、ハノイで開かれた米朝首脳会談は合意に至らずに終わった。元労働党幹部は「(首脳会談の決裂で)金正恩の最高指導者としての体面は深く傷ついた。同じ失敗は繰り返せない。金正恩は、首脳会談開催のためには、トランプが制裁緩和に応じると確約して欲しいと考えているはずだ」と指摘する。
絶対に失敗を繰り返せないトランプ氏との首脳会談を実現させるため、金正恩氏と金与正氏の兄妹は、息の合った工作活動を今後も続けることになりそうだ。

