長く日銀総裁の座を務め、2023年に退任した黒田東彦氏。当時、記者会見では異次元緩和と呼ばれた金融緩和について「負の遺産」と揶揄されることもあった。しかし、黒田氏は「何の反省もしていないし、今でもそう考えている」と語る。

 そんな黒田氏は、後任となった植田和男総裁が進める金融正常化をどう見ているのか。新著『独白―デフレとの闘い 異次元緩和の10年と物価安定の真実』(光文社)より一部抜粋してお届けする。

前日銀総裁・黒田東彦氏 ©文藝春秋

「負の遺産」を次期総裁に残すのかと問われ……

 総裁在任中、最後となった金融政策決定会合は、2023年3月9~10日に開かれた。会合では、イールドカーブ・コントロールを軸とする量的・質的金融緩和を維持することを全員一致で決定した。

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 会合後の記者会見で、金融緩和は成功だったと言えるのかと問われた私は、経済がデフレではない状況になったことや雇用が400万人以上増加したこと、ベアが復活し、かつて就職氷河期と言われたような採用難もなくなったことなどを挙げ、「金融緩和は成功だった」と答えた。金融緩和の副作用についても改めて聞かれたが、「副作用の面よりも、経済に対するプラスの効果がはるかに大きかった」と述べた。

 記者からは、日銀が買い入れた国債500兆円、上場投資信託(ETF)35兆円が「負の遺産」として植田日銀に引き継がれることについて何か反省のようなものはないのかという質問も飛んだ。

「何の反省もありませんし、負の遺産だとも思っておりません」と私は断言した。この認識は今も変わっていない。

 金融正常化のプロセスでは、長年の金融緩和によって拡大したバランスシートを縮小させていく必要がある。国債は年限があるため、売却しなくても、買い入れを段階的に減らしていけば保有残高は縮小していくが、その間に政策金利を引き上げると、金融機関の当座預金に対して支払う利払費が、収入である国債の利息を上回る「逆ざや」が発生する。

 そのような収益状況を下支えするための「プラスの遺産」がETFなのである。ETFを保有している限り、年間2兆円程度の配当が日銀にもたらされるし、売却せずに持っていてもコストはかからない。

 世間には、金融正常化を進めていく過程で日銀が債務超過に陥るのではないかという声もあるが、まったく問題はない。日銀は国債を満期まで保有するため、そもそも国債の時価評価はしていないが、償還された額の一部を使って再投資をするので、金利が上昇すれば、保有国債が高い利回りの国債に入れ替わっていく。

 また、仮に債務超過になったとしても、自身で通貨を発行することができるため、金融政策を行う能力が損なわれることはない。過去にスイス国民銀行やオーストラリア準備銀行が債務超過になった例を見れば明らかなように、中央銀行が債務超過になったからといって、金融政策が運営できなくなるわけではないのである。