「毎日、とても孤独かも。家族とはその気持ちは共有できないからね。でも運命だと分かっているわ」
在日米軍の「インテル」――諜報部門に勤務する女性が微笑んだ。彼女は情報分析官。仕事の愚痴を夫や恋人に零すことさえ許されない。何気ない一言が機密に触れるからだ。
「別のストーリーへ完全に置き換えて愚痴を言う訓練をしたから平気よ」
公安調査庁の女性は軽快に笑って言った。彼女もまた情報分析官だった。二人の笑顔にプロの心を見た。
分析官をモデルに小説を書いてきた私にさえ、本書は衝撃だった。それは世界最高の秘密情報機関、CIA。その機密のヴェールが剥がされたからではない。
CIAと聞けば、映画『007』のように世界を駆ける男性スパイを思い浮かべる。危険な潜入、敵との対決――。しかしその成功を陰で支えていたのは、机に向かう女性分析官たちだったことだ。
膨大な情報の断片をつなぎ、矛盾を見抜き、敵の意図を読み解く。一つの分析が作戦の成否を分け、時には国家の命運を左右する。彼女たちがいなければ成功しなかった任務が多数あった。その知られざる世界が、本書に溢れている。
象徴的なシーンがある。米同時多発テロを首謀した敵、ビン・ラディン追及担当の女性分析官が、自爆テロの犠牲となった先輩の葬儀で啜り泣く仲間の女性たちに向けてこう言い放つ。
「わたしがあいつを見つける。心配しないで。わたしが必ずやりとげる」
女性分析官たちは敵を追いつづけた。男たちの“大立ち回り”では代替できない「分析」に没頭した。
ここまで読み進めた時、彼女たちの華々しい活躍の連続に、サクセスストーリーの書かと信じ込んだ。だが嬉しい“裏切り”に遭う。彼女たちが戦った相手が国外の敵だけではなかったことが赤裸々に“暴露”されていたのだ。
“内部の敵”――男性中心の組織で、女性たちは実力を証明し続けなければならなかった。成果を挙げても公平に評価されず、専門的な意見は軽視される。責任ある地位に就いてなお、意思決定を左右する人間関係から排除される。国家の敵を追いながら、組織内の偏見とも戦ってきた彼女たち。
ある女性幹部は、自らの境遇を「華々しい孤立」と表現している。世界を相手にした輝かしい成功。しかし、その内側には、誰にも打ち明けられない孤独があった。
本書には秘密情報機関の内部を覗き込む、ヒリヒリする興奮がある。だがそれ以上に胸を打つのは理不尽と孤独を抱えながら、職務を全うした女性たちの姿だ。
いま、仕事に悩み、組織で孤立し、家族にも苦しみを話せない現代の女性たちにこそ本書を読んでもらいたい。そして、登場する女性たちに問いかけてほしい。あなた方を支えたものは、いったい何なの、と。
Liza Mundy/ジャーナリスト、ノンフィクション作家。元「ワシントン・ポスト」紙記者。著書『コード・ガールズ』は20万部超のベストセラーとなり、10以上の言語に翻訳された(小野木明恵訳)。他に『ミシェル・オバマ』(渡辺将人監訳、清川幸美訳)等。
あそういく/大阪府生まれ。作家。著書に『宣戦布告』『ZERO』『外事警察』など多数。最新作『ザ・ピースキーパー』発売中。
