引退、戦力外──。先日、この文春野球で今浪隆博さんも書かれていたが、多くの選手が選手生活に別れを告げ、愛着あるユニフォームを脱ぐ、ちょっと切ない季節である。
ただし「引退」ということでいえば、今年もっとも大きな話題となったのは歌手・安室奈美恵さんの引退だろう。今から20年ほど前には当時の「コギャル文化」の象徴的存在として、年齢を重ねた近年では日本を代表する歌姫として、時代が変わっても絶大な人気を誇っていただけに、その引退を惜しむ声は多かった。
とはいえ、安室さんにそこまで思い入れがあるわけではない筆者のような人間にとっては、正直に言ってしまえば他人事のようなところがあった。あの日までは──。
そう、安室さんが故郷・沖縄でのラストライブを終え、正式に歌手活動を引退した9月16日、ヤクルトの本拠地・神宮球場に異変が起きた。夜6時プレーボールの広島戦で、打席に入るヤクルト選手の登場曲、いわゆる出囃子がすべて安室さんのものに差し替えられたのである。
1番・坂口智隆は『Chase the Chance』、2番・青木宣親は『Body Feels EXIT』、3番山田哲人は『Hope』、4番・ウラディミール・バレンティンが『Fight Together』、5番・雄平が『Mint』、この日がプロ初スタメンだった6番・村上宗隆は『Fighter』、7番・西浦直亨は『SWEET 19 BLUES』、8番・井野卓は『太陽のSEASON』、そして9番・高橋奎二は『Break It』……。
あの日、神宮球場は安室奈美恵一色だった
20年ほど前の曲であれば、安室さんに「そこまで思い入れがあるわけでない」筆者にも、それなりに馴染みがある。当時はテレビの歌番組は今よりも多かったし、外出先でも彼女の曲はどこからか聞こえてきた。カラオケに行けば、女性の何人かは必ず安室ソングを歌っていたように思う。だから坂口の打席で流れた『Chase the Chance』や青木の打席の『Body Feels EXIT』には懐かしいと感じるとともに、当時の思い出などもうっすらとよみがえってきたものだ。
続く山田の『Hope』とバレンティンの『Fight Together』は比較的最近の曲ながら、筆者にも聞き覚えがあった。そのワケはヤクルトファンなら、よくご存じだろう。前者は荒木貴裕(この試合の時点では左手骨折からの復帰を目指し、ファームで調整中)の1、2打席目にかかる曲であり、後者は近藤一樹が家族のために、8月末から自身の登場曲として使っていたからだ。
ちなみにヤクルトの投手でアムロちゃん(やっぱりこっちのほうがしっくりくる……)の曲を登板時の出囃子に使っていたのは、今シーズンは近藤のほかには石川雅規だけ(『Showtime』)。NPBの現役投手では最多の通算163勝を誇る左腕は、アムロちゃん好きを公言している。
ヤクルトには、ほかにもバリバリの「アムラー」を自称している選手がいる……いや、いた。今シーズン限りで戦力外通告を受けた由規である。平成元年生まれで、アムロちゃんの歌を「幼少期から聴いていた」という彼は、2016年7月に5年ぶりに一軍のマウンドに帰ってきてからは、登板時はONE OK ROCKの『C.h.a.o.s.m.y.t.h.』、打席ではアムロちゃんの『Hero』を出囃子に使ってきた。