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あれから10年 田母神俊雄が語る「田母神論文事件とは何だったのか?」

元航空幕僚長・田母神俊雄2万字インタビュー #1

2018/10/19

genre : ニュース, 政治

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「プロレスラーに飛び掛かるバカはいない」

――そのペトリオットミサイルを含め、最近ですと陸上型イージス、イージスアショアに防衛予算を支出することが問題にもなりました。田母神さんはフォロワー数26万6千人以上のツイッターで、日本がアメリカ製のものばかり買うことに批判的なことを書かれていましたよね。

田母神 イージスアショアについて言えばね、これはお金が無限にあれば必要な兵器だと思いますが、自衛隊の予算の現実から、日本は攻撃力を持たないまま、これ以上守りを固めるのは優先順位が間違っていると思います。戦争に巻き込まれないためには日本は攻撃力を持たなければなりません。そもそも世界の空軍というのは、主体が攻撃力。戦闘機、爆撃機の攻撃力です。ところが日本の場合、航空自衛隊は守りに偏った空軍で、その割合は守りが8割、攻撃が2割といったところ。そうなると自然と、攻撃についてはアメリカに依存せざるを得なくなる。これではアメリカの国家戦略の思うがままですよ。自衛隊の戦力発揮がアメリカに依存する構造が強化されて、自衛隊の自立が出来ません。自衛隊の自立が出来なければ日本国の自立はできません。日本が今持つべきは攻撃力です。相手を攻撃する能力がなければ抑止力になりません。私はよくプロレスラーに飛び掛かるバカはいないと言っています。

 

――一方で、昨年には北朝鮮がミサイル発射実験をして、弾道ミサイルが日本上空を通過するという事態が起こりました。元空幕長から見ると、どう思われたんでしょうか。

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田母神 あれは日本国民啓蒙のためによかったと思っています。つまり、ああいう事態があると、自衛隊も実態に即して訓練ができるようになる。国民もJアラートを通じて、まさかの事態があり得ると目覚めるきっかけになったとも思います。ただ、実際には北朝鮮が本気でミサイルを撃つなんてことはあり得ないと思っていますけど。

――それはどういった理由からですか?

田母神 戦争って結局「金儲け」のためにやるものなんですよ。でも北朝鮮の場合、アメリカや日本に向けてミサイル撃って戦争を仕掛けても、儲からないことは目に見えている。そんなことしたら、北朝鮮は余計締め上げられるだけなんです。アメリカだって同じ「金儲け」の論理から北朝鮮を先制攻撃しないわけです。なぜかというと、北朝鮮があったほうがアメリカの国益に資するから。ああいう「ならず者国家」があるから、世界にはアメリカが必要だろうと。イージスアショアが必要だろうと。北朝鮮という国は、アメリカにとって武器を販売するための「理由」になっているんです。

 

「安全保障的リアリズム」は、いつ頃から身についた?

――そういったある種の「安全保障的リアリズム」は、いつ頃から身についたと思われますか?

田母神 自衛隊にいる間になぜ戦争になるのか、戦争の原因などを考えることが多くあります。もちろん自衛隊幹部学校における教育も影響しているとは思います。基本的に幹部学校で自衛官の教官から教えられるものは戦術、戦法、指揮、統率といったものが多いのですが、そのほかの外交とは何たるかといったあたりは外部招聘の講師の話を聞いて学ぶことが多かった。自衛隊の実務と学校教育を通じて自分なりの戦争観が出来上がっていったと思います。40歳を過ぎるころには今のような考えになっていたと思います。

――どんな講師の方が来たか覚えていますか?

田母神 それはやっぱり渡部昇一先生がいて、田久保忠衛先生もいらっしゃいましたね。あとは、経済学者の加藤寛先生、内橋克人先生等を覚えております。各省庁の役人の課長ぐらいの人もけっこう来ていましたね。外務省の大使経験者も何人かおられたと思います。

 

朝日新聞の労組を前に講演した

――その頃、新聞はとっていましたか?

田母神 上司から「産経新聞をとったらどうだね」と言われて購読してました。それ以来、産経は読んでいますね。月刊誌としては『正論』を読むようになりました。

――拘置所の中で産経が読めなくて困ったという話が著書にありますが。

田母神 あれには参った。仕方がないから読売で我慢した。

――やっぱり産経が読めないのは辛い。

田母神 読みたかったね。読売だと、ちょっとね、物足りない。

――あえて反対側の意見を紙面で読んだりしないんですか。

田母神 ああ、朝日新聞なんかもう20年以上も読んだことないんじゃないか。ただ、朝日新聞の労働組合に呼ばれて講演に行ったことはありますよ(笑)。

――田母神さんにとっては考え方が真逆の本丸じゃないですか。何をお話になったんですか。

田母神 いつも通りのことですよ。「僕は、あなたたちの意に沿うようなことは多分言わない。いやむしろ正反対のことを言いますよ。いいんですか」って始めてね、それで日本はいい国なんだ、憲法は改正しなきゃダメなんだという話をした。どうせ今から戦争なんて起こらないんだし、そもそも憲法改正しないほうが戦争は防げるというのも全く間違いなんですよと。戦争が起こる前のグレーゾーンの段階で、日本は軍隊を使えるようになっていますか? つまり中国の漁船が尖閣に来たり、小笠原の珊瑚を根こそぎ持ってかれるのは、憲法が自衛隊を使えるようにしていないからだと。日本は本当にこのままでいいんですか、みたいな話をした。

――朝日の労組を前に。

田母神 「9条を守る女性の会」でも同じような講演しましたよ。

――呼ぶほうも呼ぶほうだと思いますが、さすがに反論が来るでしょう。

田母神 負けないから、そんなのには。「そんなの関係ねえ」の気持ちで頑張りましたよ。

#2へ続く)

 

写真=白澤正/文藝春秋

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