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“期待の二ツ目”林家木りんが直撃 伝説のテレビマンが語る「落語家の夜明け」

師匠をもたなくてもよくなった

吉田 83年に僕がフジテレビに入って最初についたのは高田文夫先生の『らくごin六本木』で、漫才ブームの後に何とか落語ブームをもたらしたいという願いが込められていた番組でした。六本木から中継してニューウェーブ感を出して、新しいファンをつかもうとしたわけです。で、ちょうどその頃に、吉本が芸人養成学校(NSC)をつくった。これも日本のお笑いの歴史においては重大事件ですね。何しろそれまでの古典的な師匠と弟子、という関係が全部崩れてしまった。

林家木りんさん ©杉山秀樹/文藝春秋

木りん 師匠をもたなくてもよくなったんですね。

吉田 僕は師弟関係って取り戻すべき大事なものだと思うけどね。木りん君も『師匠!』って本を出したし(笑)。

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木りん ありがとうございます!

吉田 漫才ブームから『オレたちひょうきん族』『笑っていいとも!』のフジテレビ全盛時代にお笑い芸人の需要があって、師匠を持たない第3世代の芸人が台頭してきた。その最たる存在が、ダウンタウン。気づいてみると、バラエティでも歌番組でも司会をみんなお笑い芸人がやって、アナウンサーでも逸見政孝さんのようなキャラクターのハッキリしている人だけになってしまった。そういう時代に変わった時、落語の人はみんないじけちゃったんですよ。

木りん いじけた? 戦線離脱してしまったということですか。

吉田 そう。「やっぱり俺たちは落語をちゃんとやろう、伝統芸能だから」とか、「落語をちゃんとやっていれば分かってもらえる」という感じ。それで落語だけの世界に引きこもってしまったら、冬の時代になってしまった。

木久扇一門は「人気がある」「売れる」を大事にしている

木りん 確かに、いまでも落語ファン以外の一般に認知されている落語家って、『笑点』に出ている師匠たちか、桂文枝師匠、春風亭小朝師匠、笑福亭鶴瓶師匠……と数えるほどと思うときがあります。

©杉山秀樹/文藝春秋

吉田 木りん君の木久扇師匠は、一般の人気があってこそ伝わるものがあるという考えですよね。

木りん はい。うちの一門は師匠の考えで「人気がある」「売れる」ということについての意識がすごく強いんです。師匠の考えでは、自分は客寄せパンダになってお客さんを呼ぶ、その時に落語の上手い人がいるから、落語自体に興味を持つ人はそちらに行けばいいと。

吉田 ブームになった今は、落語会の切符が良く売れるので、言い方は悪いけど落語界に安住できるようになっている。だから木久扇師匠や立川流のような、人気が出てなんぼという意欲を持っている人はあまり……。

木りん そういうやる気がある人は少ないです。「とりあえず落語ができればいいや」みたいな感じの人もいますし。