バドミントンは楽しめているのだろうか
物心ついた時にはラケットを握っていたという彼女にとって、すでにバドミントンとの付き合いは20年近い。手強いライバルを相手にしながら、過酷な勝負の世界に身を置く。それでも競技は楽しめているのだろうか。
「楽しい……んじゃないですかねぇ(笑)。つまんなかったら続いていないと思いますし。それなりのプレッシャーだったり、周りからの期待というのは感じていますけど、それに押しつぶされて辞めたいと思ったことはないので。きっと楽しいんだと思います。
昔は試合や練習でちょっとダメだったら当分はダメなことが多かったんですけど、来年にはすぐにオリンピックレースが始まる状態で、1大会で負けて落ち込んでいる時間がもったいない。オリンピックの代表が決まるまで、落ち込んでる時間なんてないです。そういう意味では自分の中で、負けても切り替えられるようにもなりました」
ふんわりした口調の中に浮かぶのは、確かなプライドだ。挑むのがどんなに高い壁であったとしても、簡単に諦めることはできない。折れない野心は、大堀の心の強さを表しているようにも思う。
「昔から最終目標はオリンピック。その目標が達成できたら、もう、力尽きると思います(笑)。今はすべてをオリンピックのためにと思って毎日、毎日生活しています」
彼女の弱さは、強さの裏返しだ
現在の一番の課題は、ランキングを上げていくためにいかに海外の試合で安定した成績を残せるかだ。国内の試合では、9月のジャパンオープンで奥原との熱戦の末にベスト4、昨年12月の全日本総合選手権でも山口とフルセットの接戦を演じて準優勝するなど結果を残しているだけに、海外での戦績向上が必須になってくる。
「自分でも、なんで日本でやる試合はパフォーマンスが良いんだろうと不思議なんですけど、たぶんそれも最後はメンタルなんだと思います。海外の試合で大差がつくと『あ、もう無理!』って思ってしまうことがあったりするんですよね。でも、日本だと見てくれているファンの人、応援団の人がたくさんいるから、点差がついても絶対に諦められない。
いくら強くてもファンが少なかったら寂しいので、常に応援される選手になりたいなと」
そんな話を聞くと、思う。
彼女の弱さは、強さの裏返しだ。
多くの人が「プレッシャー」と呼ぶファンや周囲の人の期待は、大堀にとっての大きなエネルギーなのだろう。だからこそ、少しだけ意識が変われば、どんなに高い壁だって超えられる可能性を信じてしまう。
いつだって、最後に勝つのは重圧を力に変えた強い心の持ち主なのだから。
写真=末永裕樹/文藝春秋