忘年会のジャスティス
いいですか、忘年会というのはそういう水族館で魚群を見に行くようなものであって、間違ってもそこで全裸になって水槽に入って一緒に泳いではならないのです。儲かっている会社駄目な会社いろんなところが忘年会をやるけれど、前年に比べてビンゴ大会の商品は豪華になったのかどうか、大手企業からやってくる来賓は社長副社長が顔を出すのか執行役員レベルどまりなのか、女性新入社員の服装が派手かどうか、社長秘書が愛人ライクなベッタリ度合いを経営陣にしているかどうかといった各種チェック項目を指さし確認するために万難を排して出席する、それが忘年会に参加する者の使命であり心構えであり魂の叫びであり胸の奥底に秘めたジャスティスなのですよ。その組織の急所は、そこにある。偉い人にはそれが分からんのです。退職者が続出し売上利益が急減しているソシャゲ会社の幹部同士責任を押し付け合い視線も合わせないお通夜のような宴会が好きだ。イケイケドンドンで事業拡大し事業部が増えて働く人も多くなり過ぎたので会社内の忘年会なのに同じ会社の社員同士名刺交換が始まる異業種交流会のような宴会が好きだ。上場目指して頑張っていたはずなのに社長がカネに目がくらんで大手企業に買収され使えない幹部社員がたくさん天下ってきてマウント取りに来るクソ中年と萎える若者とのコントラストがまぶしい宴会が好きだ。社長や来賓のあいさつが始まっているのに技術系社員が総じてヲタだらけで深夜アニメの作画崩壊をipad片手に談笑してて完全無視して偉い人の周りが気まずくなるネット系企業の宴会が好きだ。色恋沙汰や手柄の奪い合いで険悪な雰囲気を巻き散らかす執行役員同士の言い争いを、遠巻きに社員や取引先が輪になって眺める地下闘技場さながらの忘年会こそ、私が求めてやまない人間ドラマの一部としての忘年会のあるべき姿であると言えましょう。組織に集まりひとつ屋根の下いい歳した大人の男女の喉にアルコールが注ぎ込まれてタガが吹き飛び気味のスタイルで開催される忘年会こそがその組織および構成員の皆さんの真の姿なのであります。
下戸に酒を飲ませる取締役を見てはチェックし、過剰なボディタッチを繰り返す有力取締役を察知してはしげしげと観察する私ではありますが、やはり困るのは武勇伝を語り始めるジジイの存在です。やめろよ。キャバクラでも行け。っていうか、気安く話しかけてくるんじゃない。聞いてもいないのに「私の創業のころは」とか苦労話で正面からマウントしてくる老害はほんとどうにかならないのでしょうか。徹夜して苦労したとか取引先の要望に努力して応えたとか言いたいことは分かるけど興味ねえよ。同業の何とか社長とは大学の先輩後輩だ等々のうんちくを披露されても正直どうでもいいんですよね。うっかり「へえ、そうなんですか」とか答えてしまおうものなら生体反応ありと誤認されて延々としゃべられ、せっかくの忘年会という観察の機会を逸することになる。馬鹿野郎、こちらは真剣勝負で人間観察しにきているんだ。黙れジジイ。金返せ。そのように思うわけです。
気持ちのいい忘年会とは何か
座敷での忘年会は絶対誰か瓶ビール倒して騒動を起こしますし、先日も新調したばかりの靴を誰かに間違って履いて帰られて非常に嫌な思いをしました。あんな会社早く潰れるといいと思ってしまいますよね。また、ビンゴ大会で特賞をアテる執行役員とか、お前の担当事業部で不祥事を起こせという呪いの言葉をお贈りしたくなります。てめえ何嬉しそうに任天堂スイッチの箱掲げてるんだよ。一生分のツキを使い果たしてしまえ。そういう行き届いていない忘年会を開催してしまう会社にはやはりインフルエンザ患者を送り込みたいですし、逆に気持ちのいい忘年会があればその会社の皆さんに幸あれって思うんですよね。
敢えて本質を申し上げるならば、気持ちのいい忘年会というのは、会費を払わなくていい忘年会です。心から「ご馳走になります」と言える宴会って、本当に最高だと思うんですよ。忘年会に限らず、ただ酒っていいですよね。ああ、いつまでも酒を飲みながら人間の絆が織り成す会社文化の粋を観ていたい。今年も残り少なくなってきましたが、少しでも多くの無銭飲食の機会に巡り合えますように。皆さまのお声がけを、心よりお待ち申し上げております。