市営ヒュッテを市民が建て直す
〇八年、またしても夕張岳を危機が襲った。財政破綻した市が標高六百メートル強の地点にある市営ヒュッテの管理人引き揚げと解体を決めたのだ。「驚きました。夕張岳の地形は変化に富んでいて、転倒する人が多いので、避難小屋は欠かせません」と水尾さんは言う。この山では亡くなった人も何人かおり、水尾さんは低体温症になった人を救助したことがある。
そこで会が無償で保守管理を請け負った。国が登山道のゲートを開く六月下旬から九月末まで、当番を決めて泊まり込むのだ。
だが、施設の老朽化が激しく、垂れ流しだった便所の修繕から始めなければならなかった。プレハブのヒュッテは直しても直しても際限がない。そこで建て直しを決めた。費用は募金、作業は会員の人力だ。
中心になったのは代表の藤井純一さん(67)である。元南極越冬隊員の藤井さんは器用に何でもこなす。専門書を読み、方々の建築現場を見に行って勉強した。
材料は廃校の解体材を市にもらった。一本二百キログラム以上あるエゾマツの梁などを、自分達で運んでは、釘を抜いた。
仕事を持つ会員が多いので土日ごとに何人かで集まって作業した。人数が多くて一様にできず、後で藤井さんがやり直した部分もある。それでも一三年、三年がかりでログハウス風の新ヒュッテが完成した。募金は約七百三十万円集まり、工事には延べ約千七百五十人が参加した。
会では引き続き炊事棟の建設に着手した。水汲みや洗い物はテントを張っただけの場所で行ってきたからだ。やはり募金と人力で取り組み、一七年の完成を目指している。
夕張市の財政破綻は、炭鉱会社を頼り、撤退後は市を頼った市民の依存心の強さが原因の一つとされている。そうした市にあって自ら考え、自ら行動するユウパリコザクラの会は、会員約百二十人にもかかわらず傑出した自立心を持っている。
市内では他にも「目覚める人」が出ている。滝の上地区(約五十戸)では、財政破綻後の小学校統合で空いた校舎を、町内会が引き継いだ。維持費用は、市が負担する光熱水道費の基本料金以外は、町内会が支払う。財源にしているのは、冠婚葬祭のお返しの時に行う町内会への寄付や、六年前に始めた地区のビールパーティーの会費だ。市の補助がなくなっても地元の敬老会はやめておらず、住民総出で行っていた小学校での運動会も続けている。
昨春まで八年間、町内会長を務めたメロン農家の小林尚文さん(63)は「住みよい地域にするのは市ではなく私達ですよ」と話す。滝の上は夕張メロンの産地だ。生産者は市だけでなく、国や道の補助金もほとんど使ってこなかったので、産炭地にありがちな依存心がない。
「ただし市全体では、財源がないから市役所に何を言っても無駄という諦めムードが強まっていて自治力が落ちています」と市議会議長の厚谷司さん(51)は指摘する。
東京都職員から転身し、支持率の高い鈴木直道市長(35)を頼りすぎる傾向を危ぶむ声もある。例えば、市を貫くJR支線は乗客が少なく、新しい交通体系構築への協力を条件に、市長がJRに廃線を提案した。「不安はあるけど市長が何とかしてくれる」と話す人は多い。
破綻で市民は強くなったのか。
答えはなかなか見えてこない。