あたかも作者の体内に潜り込んで探検し、これまで目にしたことのないものを続々と見せつけられるような体験だった。
鎌倉市にある鎌倉画廊での、川内理香子個展「human wears human / bloom wears bloom」。
「身体」ってなんだ? を問う作品群
川内理香子はドローイング、油彩画、立体彫刻と幅広いかたちで作品をつくり続けるアーティスト。彼女の創作の原点には、「身体」についての不思議が横たわっている。
人間をはじめとして、生きものには身体がある。それってなぜなんだろう。脳や思考こそがその人の「核」だと考えられることが多いのに、それ以外の部分をいつも引きずっている必要はあるんだろうか。
しかも、身体はしばしば、人の核であるはずの脳や思考を軽く上回るほどの強い力を持つ。たとえばお腹が空いたときは、クラクラしてろくにものを考えられなくなって、食欲を満たすことにひたすら執着してしまう。
「痛み」や「眠気」も強力だ。足の小指を机の角にぶつけたらしばらくは思考停止だし、睡眠不足が続けばその人のパフォーマンスはガタ落ちになるのは明らか。
ひょっとすると、人や生きものを支配しているのは、脳なんかじゃなくて身体なんじゃないか。
生命の本質に触れるような線
川内は、とりわけ身体性が際立つ「食」という行為に着目して、絵を描いたり立体をつくったりしてきた。彼女が表すケーキなどの食べものは、いかにもおいしそうな色味や質感なわけでは決してない。それなのに、異様なほど食欲をそそるというか、これを自分の体内に取り込んで一体化したい! との強い欲望に駆られる。
多くは赤い線で描かれる人物像のドローイングも、ほんの少しの線で画面に「しるし」が付けられただけなのに、存在感が際立つ。私たちが思うよりもずっと強い身体性から想を起こして描かれるから、生命の本質に触れるような線が生まれてくるんだろう。