『サーチ/search』と新しい文法
映画とはそもそも、大きなスクリーンで、同じ時間に、大勢の知らない人たちと体験や感動を共有することを前提に創られている。演出も編集も音響も、そのためにある。大スクリーンで美男美女のロマンスや冒険のスペクタクルが繰り広げられ、そこで輝く人たちこそがスターと呼ばれる。それが映画であり、映画体験なのだ。
しかし、そんな風に映画を観るという体験は、遠くない将来に消えてしまうかもしれない。
映画は映画館のスクリーンから、ビデオやDVD/BDというパッケージに収められて、テレビのモニターで再現できるようになった。さらに今では、スマホやタブレットにオンデマンドで配信され、いつでもどこでも一人で鑑賞できるようになった。
その結果、“映画”は変化する。新しい鑑賞スタイルに見合った、新しい文法で創られるようになる。その最新で最良の成果が、先月の原稿で取り上げた『サーチ/search』だろう。
古き良きものを懐かしむだけでも、新しいものをむやみに追いかけるだけでも、映画は豊かにならない。
魔法の“報酬”
この『恐怖の報酬 オリジナル完全版』はリメイクであり、完全版でもあり、リバイバルでもある。これが世界中で称賛されたことは、作家・クリエイターが本来伝えたかったことを、正しく受け止めたいという映画ファンがいることを証明している。作品の“報酬”は、興行によってもたらされるのではない。それを届ける道中にこそ宿るのだ。
最初に公開された短縮版の『Wages of Fear』は、映画会社がお金という報酬を得るための商品だった。オリジナル完全版の『SORCERER』は、作品の真っ当な評価という報酬を届けてくれる作品として蘇った。
40年前にエンタテインメントの魔術を奪われ、封殺された魔術師が戻ってきたのだ。
その復活の道のりは、4人の男たちが選ぶしかなかった道を歩んだことで“報酬”を得るという物語の構造にも重なる。“運命に引かれて” SORCERERはリバイバルした。
私たちは、ウィリアム・フリードキンという魔術師が届けてくれる“報酬”を、スクリーンから受け止める運命に引かれなければならないのだ。
新しい時代に、過去の傑作を再生(リバイバル)することの意義が、ここにあると言えるだろう。クリエイターがかけた映画という魔法の“報酬”を、私たちは敬意と喜びをもって受け取ることができる。
INFORMATION
恐怖の報酬【オリジナル完全版】
●出演:ロイ・シャイダー、ブルーノ・クレメル、フランシスコ・ラバル、アミドゥ ●監督・製作:ウィリアム・フリードキン、脚本:ウォロン・グリーン、原作:ジョルジュ・アルノー、音楽:タンジェリン・ドリーム
公開中。シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー