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謎に包まれた「ウナギ不正流通」の実態とは……密漁ビジネスに迫る

勝川俊雄が『サカナとヤクザ』(鈴木智彦 著)を読む

2018/11/26
『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』(鈴木智彦 著)

 日本人にとって、水産物は身近な存在である。にもかかわらず、漁業の現場の情報を消費者は与えられていない。スーパーに並んでいる水産物には何県で水揚げされたかという情報しか表示されていない。日本の水産流通にはトレーサビリティが欠如しており、自分が食べている水産物を、いつ、誰が、どうやって獲ったかを知ることは、ほぼ不可能だ。不透明な流通の隙間から、不正に獲られた水産物が大量に入り込んでいる。

 漁業者と話をすると、彼らの多くが密漁に悩まされていることに驚かされる。報告された漁獲量を遥かに上回る水産物が市場に流通しているケースすらある。至る所に不正漁獲の痕跡があるが、誰がどの様な不正を行っているかといった実態は表に出ることはない。

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 本書は、裏社会に詳しいライターによる密漁の潜入ルポである。アワビ密漁団、東京築地市場、北海道のナマコとカニ、ウナギの国際的な不正流通など、様々な現場に入り込んで、丹念に取材をした集大成といえる。長年、水産の現場に出入りしている私自身も、これまで知らなかったことが多く、書きかけの原稿を放置して、一気に読んでしまった。