11月16日、京都大学などの研究チームが、人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)からがんへの攻撃力を高めた免疫細胞「キラーT細胞」を作製したと発表し、新聞やテレビ、ネットなど多くのメディアに報道されました。
第三者の血液由来のiPS細胞にがんを認識する遺伝子を組み込み、ステロイドホルモンなどを加えて培養することで、がんを攻撃する高品質のキラーT細胞をつくることができるようになったそうです。
人のがんを再現したマウスに注射したところ、がんの増殖を3~4割に抑えられたとのこと。今後、実際の患者に使う臨床試験の準備を進めると報道されていました(朝日新聞DIGITAL「iPSから対がん免疫細胞を作製 京大などが発表」など参照)。研究の成果は、米科学誌の「セル・ステムセル」に掲載されるそうです。
それにしても京大はすごいです。この10月に京大高等研究院の本庶佑特別教授ががんの治療薬「オプジーボ」の元になった研究でノーベル賞を受賞しましたが、同じくノーベル賞を受賞した山中伸弥教授(京大iPS細胞研究所所長)のiPS細胞を応用した治療で多くのがん患者を救えるようになれば、京大のノーベル賞が日本の、いや世界のがん治療をさらに大きく前進させたということになるでしょう。
「動物実験」が終わったばかり
私も、こうした研究をどんどん推し進めてほしいと思いますし、画期的な成果が出ることを心から願っています。ただ、私は報道のあり方にはいつも疑問を持っています。というのも、この研究はまだマウス、つまり「動物実験」段階を終えたばかりだからです。
これから実際の患者に使う臨床試験の準備を進めるとのことですが、保険が使える治療として国の承認を目指す場合、まずは少人数の健康な人または患者さんを対象にキラーT細胞を点滴するなどして、安全性に問題ないかを確かめる試験(第Ⅰ相試験)を行うことになるはずです。
それをクリアしたら、今度は数十人から数百人程度の患者さんを対象に、有効性、安全性、投与量などを確かめる試験(第Ⅱ相試験)を行うことになります。さらに、それもクリアしたら、実際の治療法に近いかたちで数百人から千人規模の患者さんに投与して、有効性と安全性を確かめる試験(第Ⅲ相試験)を実施することになるでしょう。