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“型に始まり型に終わる”能に近い?

 2.5次元舞台を取材していて「おもしろいわあ」と思うのは、俳優の役への向き合い方。たとえばシェイクスピアの『ハムレット』なら、台本を渡された俳優は「いかに、自分にしかできないハムレットを演じるか」と突き詰め、役を構築します。が、2.5次元舞台でそれはご法度。なぜなら2.5次元舞台の最重要課題は「いかに、原作のキャラクターに忠実に演じるか」だからです。

 まれにこの最重要課題をくつがえそうと血気盛んな若手俳優が「これが俺のオリジナルだぜぇ」をやってしまい、原作ファンからボッコボコに叩きのめされ、舞台の隅で屍になる姿も目撃します。怖いです。歌舞伎やタカラヅカより原作キャラクターの“型”に近づこうとする2.5次元舞台。もしかすると、その存在は“型に始まり型に終わる”能に近いのかもしれません。

10月に発売されたミュージカル『刀剣乱舞』~結びの響、始まりの音~のDVD

 そんな2.5次元舞台の中で、今、もっともアツいのが『刀剣乱舞』。原作は日本刀ブームを巻き起こし、世界中でプレイされているゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』です。

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 名だたる名刀が戦士の姿=「刀剣男士」となり、歴史を改ざんしようとする者たちと戦う、という設定なのですが……大丈夫ですか、ここまでついてきてくれてます? ちなみに「刀剣男子」ではなく「刀剣男士」。彼らの数え方は「一人」ではなく「一振り」(刀ですから)、ファンや観客のことは「主」(あるじ)と呼びます。先生、このあたりはテストに必ず出しますからみんなも忘れないように。

「ライバルは東京ディズニーランド」

 さて、上演開始から3年で通算動員記録50万人を叩きだし、フランスや中国での公演も成功。今回、企画枠として紅白歌合戦への出場を決めたミュージカル『刀剣乱舞』について、もう少し掘っていきましょう。

 と、ここで一人の絶対的キーマンの存在が浮上します。そのキーマンとは2.5次元ミュージカルの総本山・ネルケプランニングの代表取締役会長であり、日本2.5次元ミュージカル協会代表理事でもある松田誠氏。今年1月には有名人の誰もが1度は出たいと熱望する『情熱大陸』(TBS系列)に密着され、イケメン俳優たちに「兄貴!」「お父さん!」とアゲられていたその人です。

2.5次元ミュージカルをビジネスとして成功させた松田会長 ©時事通信社

 元は役者出身の松田会長ですが、なにより凄いのは2.5次元ミュージカルをそれまでの演劇界の常識や慣習にあてはめず「ライバルは東京ディズニーランド」と言い切った上でビジネスとして成立させたこと。つまり、ただでさえ頭打ち感がある既存のシアターゴアーを日比谷や下北沢の劇場と取り合うのではなく、「演劇なんて暗いしダサいし無理~」と可愛いスイーツと自分の写真をインスタにあげることに注力している若い女性に的を絞ってリーチしたのです。