支払われた10億円の行方は?
「日韓慰安婦合意」を当初から批判し、財団の解散を訴えていた元慰安婦を支援する挺身隊問題対策協議会(現在、「正義記憶連帯」)は、「(財団解散は)日韓慰安婦合意の事実上の破棄」(カトリック放送でのユン・ミヒャン理事長インタビュー)として気を吐いている。
財団自体も、文在寅大統領の誕生後、「当事者不在なため合意に瑕疵がある」と調査され、昨年末には民間の理事も全員辞任し、すでに休眠状態にあった。
日本の拠出金10億円については、韓国では「日本に返還せよ」という声もあがるが、「実際に日本に返還することは厳しいとみていて、基金のような形で運営していくことになると見られています」(別の韓国紙記者)。また、財団の解散手続きには半年から1年かかるといわれ、「その間に(10億円の処理について)答えを出そうという算段でしょう」(同前記者)。
「積弊清算」に韓国人も疲弊
解散発表の翌日、さて、韓国紙はどんな論調なのかと思い新聞を見ると、大手3大紙は関連記事は掲載していても、社説ではとりあげていなかった。昔ならこの問題一色だったろうにと少し意外に思いながら、大手紙の外交安保担当の論説委員に訊くと、「どうして社説でとりあげなかったのか……」と言葉を詰まらせた。
「財団の解散はすでに予定されていたことだし、文大統領も康京和外相も慰安婦合意を破棄したり、再交渉はしないといっていますから、合意自体は揺るがないと判断したこともあります。
ただ、拠出金まで渡していた財団をあえて解散する必要があったのか、もう少し知恵を絞れなかったのか、そんな話もかなり出ました。
韓国と日本の問題は本当に複雑で難しく、何度も何度も同じようなことが繰り返されて、解決策はいまだに見える気配すらない。おまけに積弊清算で前政権がやったことは頭ごなしに否定される。こうした問題を扱うことに疲弊している雰囲気もあるんです」
韓国では、「今の日韓関係には悪材料しか見当たらない」(冒頭の記者)といわれ、今から来年行われる予定の「3.1運動と臨時政府樹立100周年記念事業」も懸念する声がある。これは抗日・独立運動100周年を祝うもので、韓国政府は東京も含めて世界各国の在外公館で記念式典を開く予定だという。
北朝鮮に新たな「少女像」設立の予定
式典については、日本がとやかく言う筋ではないだろうが、それよりもさらに事態が深刻化する可能性がある。それは、北朝鮮が加わることだ。
正義記憶連帯は最近、北朝鮮との連携を前面に押し出している。
11月16日には「挺身隊問題対策協議会創立28周年記念シンポジウム」が開かれたが、そのテーマも、「北朝鮮側生存者の記憶と証言、そして問題解決のための南北連帯」だった。
発表された活動内容によると、南北での活動は90年代初めから始まっていて、韓国の政権がかわるたびに寄り添ったり疎遠になったりはしていたが、今後は連携を強めて、北朝鮮に「平和の碑」(少女像)を建てることを提案していることを明らかにした。
北朝鮮の慰安婦問題の窓口は、「朝鮮日本軍性奴隷および強制連行被害者問題対策委員会(朝対委)」で「統一戦線部傘下」(脱北者による)といわれ、52人の元慰安婦が名乗り出たそうだが、現在は全員、鬼籍に入っている。韓国の元慰安婦は今年に入り6人が他界し、現在は27人が生存している。
パンドラの箱の中にまたパンドラの箱。
こんな状況の中、安倍首相は「戦後日本外交の総決算」に果たしてどんな絵図を描いているのだろうか。