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ネタの宝庫だった防大

――なんで大学の写真集? と思ったけど、防大は被写体としても魅力あるんですね。

宮嶋 今、母校の客員教授やってるから、昨日も日大にいってきたけど、日大を撮ってくれ、と言われたらどこをどう撮っていいのか想像もつかん。それに比べて防大はネタの宝庫。どうして今まで誰も撮らなかったんやろう、と思うたわ。白い制服の集団が校内を行進したり、2000人がいっせいに食堂で食事したり。今どき学生が乾布摩擦とかやらんでしょう。行けば行くだけ面白いものが撮れた。

©宮嶋茂樹

――たしかにわれわれがイメージする大学とはぜんぜん違います。

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大学でもない、軍隊でもない、不思議な空間。

宮嶋 どのページめくっても1台も携帯、スマホが写ってないでしょ。防大はスマホのない世界ですから。今どきそんな大学ある? それだけで、ここはシャバと違うわ、と。大学でもない、軍隊でもない、不思議な空間。

――そういう雰囲気がどの写真からも感じられる気がします。

宮嶋 防大みたいな学校は、シャバと同じ教育なんて無理なんや。卒業したら人の命のやりとりをするわけやから。人権や、体罰や、民主主義や、セクハラやとか言うてられんシュラ場に立つときもあるんや。上官の命令に部下が「多数決で決めました、できません」とか言いだしたら収拾つかん。「パワハラ!」とか通用しない世界。そこはそういう世界に生きる人なんだから部外者がどうこう言えん部分がある。程度問題はあるにしても全面否定はできん。

着校日に髪を切る瞬間の女子学生

――宮嶋さんが撮るものは、戦場もそうですし、数々のスクープ、それに災害現場とか「非日常」が多かったわけですが、防大も「非日常」なんですね。

宮嶋 不思議なもんやで。普通の高校生が防大に入学して3カ月で重い小銃を振り回すと思うたら。1年と4年と顔つきが違うんですわ。1年はまだシャバっ気が抜けてない。着校日に髪切る瞬間も面白かった。あそこで涙目になりながらシャバと決別するんやな。男はまあええけど、女子は、えっ! というくらい短くしますからね。男と一緒に床屋で髪切るとかないでしょう。髪は訓練のじゃまにしかならんっていうのを最初に叩き込むんやな。

©宮嶋茂樹

――大充実の写真集ですが、これは撮れなかった、という心残りは?

宮嶋 全体写真や。1年から4年まで全員集めて撮りたかったですわ。絶対、迫力あるでしょう。全員写ってたら全員買うてくれるかもしれんし(笑)。チャンスはあったんですよ。パレードのときとか。パレードを時計台の上から、と思ったら、安全上の理由やとかでだめやったわ。高所作業車はどうやと考えたけどこれもだめ。ドローンも検討したけど論外やったわ。もし次回があるならこれはトライしたい。そのためにももっと売れてもらわんと。

全126枚、ここでしか見られない写真

――これまで宮嶋さんが出した中で1番高い本ですよね。

宮嶋 もちろんもちろん。でも8500円どころか85万円の価値はあるで(笑)。

――ここでしか見られない写真がたくさんある。

宮嶋 細かく見れば見るほどいろいろ見えてくるで。たとえばダンスパーティの女の子。ここ見て。耳たぶまで真っ赤でしょう。初々しい。

©宮嶋茂樹

――確かに。物語が見えてきますね。防大に憧れる女子が、卒業ダンスパーティで憧れの防大生とついに踊るーー。

宮嶋 で、防大生の手がまたいいんですよ。ボクの手、どうしたらいいですか、っていう戸惑いが。

――手を添えている場所が微妙ですね。

宮嶋 上でも下でもない、中途半端な感じ。この初々しさが防大や!

鳩と桜 防衛大学校の日々 National Defense Academy of Japan

宮嶋 茂樹(著)

文藝春秋
2018年10月31日 発売

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