1ページ目から読む
2/2ページ目

令和のミスタープロ野球へ

 そんな坂本に目指してほしいレジェンドがいる。

 53年前、今の坂本と同じ30歳で巨人を引っ張ったチームリーダー。やや物足りない成績に終わった前年とは打って変わり、打率3割4分4厘で首位打者とセ・リーグMVPを獲得。打点王と本塁打のタイトルこそ王貞治に譲ったものの、26本塁打、105打点もリーグ2位と打ちまくった。さらに、日本シリーズでも2本の本塁打を放って優秀選手賞に輝き、チームを日本一に。オフにはドジャースから「2年だけでいいからうちでプレーしてほしい」とラブコールを受ける。だが、球団首脳は「彼がいなくなったら日本の野球は10年遅れる」と話し、チームに引き留めた。

 1966年の長嶋茂雄――。走攻守に優れた天才肌であることに加え、ルックスにも恵まれた陽性のスター。人気、実力、代替する選手の不在。「彼がいなくなったら大変なことになる」。そう感じさせるぐらいの存在感。長嶋と坂本には共通点が多い。というより、坂本勇人はミスターを目指すことを許される現代で唯一の選手だと言っていい。

ADVERTISEMENT

坂本勇人はミスターを目指すことを許される現代で唯一の選手だ ©文藝春秋

 そして今季、坂本にとって、長嶋にとっての王となり得る選手が加入した。3連覇中の広島からやってきた丸佳浩だ。先日、セ・リーグ関係者がこんなことを言っていた。「丸は今年、これまで以上に打つかもしれません」。現在、プロ野球はデータ全盛時代を迎えている。各球場には「トラックマン」と呼ばれる弾道測定システムが導入され、投手であればリリースポイントの前後のぶれ、投球時の頭とボールの距離、回転数、変化量、ホップ量などが、打者であれば打球速度や角度などが瞬時にデータ化されて出力される。「きょうの○○はキレがある」「ボールに伸びがある」といったこれまでは打者目線の主観に頼っていた要素も、このシステムによってはっきりと数値化されてしまう。

 そして、このシステムを12球団で唯一導入していないのが、カープなのだ。はっきりとした理由はわからないが、トラックマンを導入するためにはバックネットを特殊な素材に交換しなければならず、それには数千万円単位の予算がかかるらしい。カープも「ラプソード」というトラックマンに似たシステムを導入しているというが、他の11球団がそれぞれ所有しているデータを持っていない、というのはハンデであることは間違いない。元々圧倒的な打撃を誇っていた丸が、巨人入りによってきめ細かいデータという武器を手に入れ、鬼に金棒状態になる可能性もあるということだ。そして、その丸と坂本がONのように切磋琢磨し、化学反応を起こしていくことが、5年ぶりの優勝には不可欠だと言える。

 新元号となった5月1日、坂本は12球団を通じての「令和第1号ホームラン」を放った。令和のミスタープロ野球へ。まずは主将としての初優勝が最初の宿題になる。

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/11707 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。