「監督がどれだけ我慢して使えるか」
春季キャンプの浦添。ブルペンから長谷川は注目の的だった。威力のあるストレートはやはり見応えがある。報道も多く取り上げていた。キャンプ中継では、解説の池田親興氏がブルペン直後の長谷川やコーチにインタビューをしていた。池田氏はホークス時代の長谷川を「変化球が決まらず自滅していくところも何度か見た」と言っていた。確かにウエスタンの防御率(2018年:5.32、2019年:6.04)はあまりいいものではない。斎藤隆投手コーチは長谷川を「まだ成熟度は低い」としている。さらに「期待ばかりが大きくなるとプレッシャーになる」と周囲の熱には少し懸念があるようだった。
一軍の公式戦登板は未知の領域だ。この先の登板一つひとつが大事な経験になる。「監督がどれだけ我慢して使えるか」だとも斎藤コーチは言っていた。練習試合とオープン戦でいい投球は見られたが、公式戦では雰囲気も相手もまた違う。シーズンは長いから、状態が悪い時に投げたりもする。いずれ打ち込まれることもあるだろう。期待するからには、ファンも我慢して長い目で見たいものである。
阪神とのオープン戦(2/24)ではピンチもあった。2ー1とリードしての9回。内野のエラーで出塁され、さらにエラーのつかない味方のミスで同点とされた。しかし長谷川は落ち着いて次の打者を攻めて打ち取る。エラーで浮足立つことなく同点で食い止めた。
高校時代、「三振が多すぎると守備が硬くなりエラーをする」と考え、三振を取ったり打ち取ったり、頭を使った投球をしていたという長谷川。ソフトバンク時代、紅白戦で炎上した翌日、千賀滉大にフォークを教えてもらいに行ったという度胸の持ち主。たとえ打たれても崩れても、そのままではいない人なのだろうと思う。投球だけでなく精神面のポテンシャルも高いように見受けられた。
ヤクルトの一員として憧れたマウンドに立つ日
即戦力として期待される移籍。その期待が出来るのも、高校時代、逸材と目をかけて見違えるように成長させた中里監督や、実力を見出して獲得したソフトバンクの山本スカウト、そして3年間じっくり指導してきたコーチ陣のおかげだ。「150キロ左腕」の長谷川宙輝がヤクルトに来た時に、様々な人に支えられ成長してきた6年間も一緒にヤクルトが頂いたのだ。それは忘れないようにしたいと思う。いずれにしても、ヤクルトで活躍することが報いる道であるのは変わらない。
高校時代、長谷川の目標は甲子園ではなく、西東京予選のベスト8。神宮での試合だった。それはかなわず最後の夏も3回戦で消えたが、東京ヤクルトスワローズの一員として神宮のマウンドに立つ日は遠くない。かつてファンとして見た場所。高校球児として目指した場所。満員の神宮で、ヤクルトファンの大歓声を背に、恐らく好きなアイドルの登場曲を引っ提げて、長谷川は憧れたマウンドに登る。そこからの風景はどんな風に映るのか。お立ち台で聞いてみたい。
キャンプは終了し、実戦でも一通りの戦力を見ることが出来た。山田大樹は一度先発して打ち込まれたものの、
キャンプ終了時点のTwitterでヤクルトファンに「期待する新戦力」のアンケートをとってみたところ、長谷川宙輝(38%)に次いで吉田大喜(32%)、エスコバー(27.5%)という結果が出た(投票数897票)。長谷川に票が集中するかと思ったが、さほど差はない。大卒ルーキー吉田大喜(日体大・2位)は、大学日本代表にも
開幕前のこの時期は、誰にどれだけ期待してもいい時期だ。オープン戦は無観客、さらに開幕延期、という選手にもファンにも厳しい事態になったが、その先には夢も希望も期待もある。しばらく我慢した分も、大いに楽しみたい。野球を見られる幸福を皆で大事にしていきたい。
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