ホークスはかくして常勝軍団と呼ばれるようになった。そして17年オフに井口マリーンズが誕生するとヘッドコーチ役に指名され移籍。ホークス時代と同じように熱く、時には厳しく指導し、人としての在り方を説いている。少しずつ変化を見せる若手選手たちを見つめながらポツリとつぶやいたことがある。
「彼らが1本のホームランを打つ事も大事だけど、オレは彼らが困っている人がいたら助けられる人間になって欲しい。電車の中で座っている時に困っている人がいたら率先して席を譲れる人間であって欲しい。誰かのために行動が出来る人間であって欲しい」
その言葉に鳥越ヘッドコーチの生きざまが詰まっている。時には鬼軍曹と恐れられるが、その中心にあるのは人。優しさであり、真っ直ぐな気持ちだ。
「このままではお互いダメだ」福田秀平と一緒に泣いた日
今年、ホークスの二軍コーチ時代に指導をした福田秀平外野手がFAでマリーンズに加入した。再びチームメートとなった時、遠い昔の記憶が蘇った。コーチ時代の08年8月の事。7月に最愛の妻を乳がんで亡くし失意のまま、1カ月ぶりにチームに再合流した。なかなか気持ちが入らなかった。ノックをしている時、福田秀の動きが気になった。2年目の19歳は身が入っていないように見えた。彼もまた6月に心筋梗塞で父を亡くしていたのだ。
「同じ境遇。このままではお互いダメだと思った」
練習後に球場のベンチ裏に呼び出した。そして声をかけた。「オマエもしんどい。オレもしんどい。一緒に頑張ろう。明日から前を向いて頑張ろう」。短く言葉をかけると福田秀の目から大粒の涙がこぼれた。ポロポロとこぼれる涙を目にして我慢していた想いが決壊した。一緒に泣いた。涙が涸れるまで泣いた。
「19歳の選手と一緒にオレは大泣きをした。自分もあれで救われた。気持ちをグラウンドに戻してもらった。選手とコーチといっても同じチームの仲間。それも教えてもらった」
時は流れ、二人は再びマリーンズで仲間となった。期待を込めて指導をした若者は頼もしきFA選手となってチームに加わってくれた。指導者として、これほど嬉しい事はない。
2020年、シーズンは未だ始まりの気配を見せていない。ただ鳥越ヘッドコーチに焦りの気持ちはない。「それは仕方がない。どこも一緒。逆境の時のマリーンズは強い。そうだろう?」。チーム活動が休止中の状況でも心は燃えたぎったままだ。井口マリーンズ3年目のシーズン。いざスタートが切られたら心を一つに一心不乱にゴールに向けて突き進む。熱血ヘッドコーチのいるチームが混パの主役となる。
梶原紀章(千葉ロッテマリーンズ広報)
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム2020 オープン戦」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/37668 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。