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あの夜、一体何が起きていたのか?

 次の日、大学の食堂で待ち合わせをして4人が撮ってきた写真を見せ合ったりしていました。

 その日の青木君は、普段通り温和な感じだったので、一人が切り出しました。

「ずっと気になっていたけど、青木はあの夜どこで寝ていたの?」

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「あ、それがね……」

 青木君があの夜の話を始めました。

「あの日、コンビニに寄ったあと、みんなには心配掛けるといけないと思って内緒にしていたけど、車に酔ったのか気分が悪かったんだ。だからみんなより先にテントで眠らせてもらったんだ。夜中、突然目が覚めて、気が付いたら真っ暗な廃屋の中で一人寝ていてね。ビックリしたよ。僕は急いでテントに戻ろうとしたんだけど、何となくそこの家が居心地が良くて、そのまま寝ちゃったんだ。そして朝、気が付いたらみんなの寝ているテントの前でカセットコンロに火を付けている時に『青木、おはよう』という誰かの声がして、我に返ったって感じがしたんだ。

 帰りのコンビニでも、トイレに入った瞬間、また頭がぼーっとしていると、誰かが激しく扉をノックしてきたので驚いて我に返ったんだ。その時、右手になぜかライターを持っていて、火災警報器が反応でもしたのかと驚いたよ」

©iStock.com

例の男性に乗り移られたのか?

 このお話をお寺で4人からお聞きしている時、青木さんは青ざめておられました。

 私はここまでお話を聞かせていただき、要するに、ご老人から聞かれた事件の男性が青木さんに乗り移ったのではないかという事ですかと尋ねました。

 すると4人は「はい、間違いなくそうなんです」とおっしゃるのです。

「何か確信できる物があるんですか」

 とお聞きしました。

 すると、根拠があるんですといって、数枚の写真を見せてくださいました。

 1枚はテントの写真でした。その下の方に「む」に似た字が書いてあります。

 そして、こちらは携帯電話で撮られた写真でしたが、コンビニエンスストアのトイレの壁に書かれたこれも「む」に似た字の写真でした。

 青木さんはもしかしたら自分がテントやトイレに火を着けようとしていたのではないかと震えていました。

 私はこの文字を見た途端、すぐにテントと写真をお焚き上げしましょうと提案しました。

©iStock.com

 皆でお経を挙げさせていただき、これで大丈夫だと思いますが、一応、4人が行かれた廃村の場所をお聞きしました。

 この時、4人の学生さんにはお話ししませんでしたが、あの文字は「む」という文字ではありません。

 確かに「む」に似てはいますが、あれは「死」という漢字を草書体で書いたものです。

 もしかしたら、何かを伝えたい霊がおられて、話を聞いて欲しいと思っておられるのではないかと、廃村の場所にお経を挙げに行こうとしました。

 しかし、私が行こうとした時には、村は全て壊され、その後には、植林されることが決まっていました。

 今回のことが以前の事件と関係するかどうかは分かりません。ただ、何か怒りから離れられない魂が存在するのかも知れないという悲しい思いが残りました。

 今も時々この村のことを思い出してはお経を挙げさせて頂いております。

続々・怪談和尚の京都怪奇譚 (文春文庫 み)

三木 大雲

文藝春秋

2020年8月5日 発売

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