事故物件の調査をしていると、ときに不可解な物件と出会うことがあります。私が特に気になるのは、なぜか同じ場所で繰り返し事件や事故が発生している物件。偶然という言葉で片付けようにも、どこか説明しきれない“何か”が残ってしまう……。そんなケースに遭遇することもあるのです。
前回は、三世代同居の一軒家がわずか1ヶ月の内に“崩壊”していった事例をご紹介しました。今回は、もう少し長いスパンで観察することで浮かび上がった、特殊な事故物件の実例についてお話ししましょう。(全2回の2回目/前編から続く)
都内のマンションで殺害された女性
昔から私たちの社会は、誰かの死をきっかけに大きく何かが変化する、ということを繰り返してきました。公害問題で多くの犠牲者が出て初めて環境基準が設定されたり、会社員の過労死や自殺によって働き方のルールが改善されたり……。
人の死というのはそれほど大きな力を持っていると言えますし、裏を返せば誰かが死なない限り社会は変わらない、とも言えるのかもしれません。今回ご紹介する事故物件は、そうした「死によって社会が変わった」ケースの一つです。
今から約10年前、東京都のとある住宅街に建つマンションで、30代の女性が首を絞められ、殺されました。逮捕されたのは交際相手の男。しかし、その男には妻と子供がいました。つまり、不倫関係だったのです。
男は「別れさせ屋」だった
当初は、不倫の末の別れ話がこじれ、カッとなった男が女性を殺害した……という、よくある事件かと思われました。しかし、捜査が進むにつれ、全く別の真実が浮かび上がってきました。実は男は「別れさせ屋」だったのです。
探偵会社の社員だった男は、次のような仕事をしていました。まず、妻と離婚したいという男性から依頼を受けると、偶然を装い、その妻に接近。依頼者から聞き出した妻の個人情報や趣味嗜好など、さまざまな情報を利用しながら、あの手この手で依頼者の妻を口説き落とすと、ホテルに連れ込み、関係を持ちます。