“BCリーグの希望”ソフトバンク・渡邉雄大が一軍登板を果たすまでに歩んできた道

BCリーグにとって大切な曲を登場曲に

　また、辻さんにはもう一つ嬉しいことがありました。それは、BCリーグにとって大切な曲を渡邉投手がPayPayドームでマウンドに上がる際の登場曲にしてくれたことでした。

「雄大はこういうことをしてくれる選手なんですよ。BCのみんなやファンの人も喜んでくれています」

　渡邉投手が登場曲に選んだのは、落合みつをさんの「少年が見た未来へ」という曲でした。

　この曲はBCリーグが発足年から取り組むAED普及活動“MIKITO AED PROJECT”のテーマソングです。BCリーグが誕生した2006年、一つの小さな命が天国へ旅立ちました。新潟の野球少年、水島樹人君は少年野球の試合前、急性心不全により9歳という若さで命を落としました。

　樹人君の夢は、新潟のプロ野球チームを応援することだったと言います。まさにリーグ立ち上げへと動いている時のこと。ところが、思うように協力者が得られず、構想が頓挫しかけていました。そんな時、樹人君のお母さんから「息子の夢を叶えてあげてください」という手紙が届きました。その言葉に奮い立った事務局は、再び結束して動き出すことが出来たのだそうです。

　BCリーグ誕生へと背中を押してくれた樹人君への感謝と共に、樹人君の悲劇を繰り返さないためにも、AED普及活動にリーグとして取り組んでいるのです。

　辻さんは、渡邉投手の登板の度に「より多くの人にBCリーグのバックボーンを知って欲しい。経営も大変だし、お客さんもまだ少ないし、スポーツの多様化もあるけど、プロチームのない地域のこどもたちもプロ野球に夢を持って頑張れるようになって欲しい。雄大みたいな選手が出てきてくれることを願っています」と言葉に熱を込めました。

　そして、現在、新潟県内の高校生で渡邉投手に憧れてBCリーグへの進路を模索している選手がいることを辻さんが嬉しそうに教えてくれました。

　決して平坦ではない道のりを歩んできたからこそ、ちょっとやそっとのことでは挫けるはずがありません。やっとの思いで支配下登録を勝ち取り、1軍初登板から3試合（1回2/3）に登板し、安打を許さぬ無失点ピッチング。存在感をアピールしたところでしたが、左肘に異変を訴えて降板し、登録抹消。診断の結果、今季は厳しい状況になりました。

　どんな時も諦めずに自分の道を模索し続けた渡邉投手なら、この困難も乗り越えてさらにパワーアップして帰ってきてくれるはずです。

　大型の変則左腕、特異なスライダー。鮮烈なインパクトは私たちファンの胸に突き刺さりました。球団にも確かな印象を植え付けたはずです。

　自身の夢と、BCリーグの夢を背負って突き進む渡邉投手のプロ野球生活はまだ始まったばかり。次はどんな衝撃を与えてくれるのか、楽しみに待ちたいと思います。

〈追記〉

「僕にできること。一日一生。明日がある保証は誰にもない。だから今日、今、この瞬間を、後悔ない様に生きる」

　18日、渡邉投手のインスタグラムに投稿された言葉。BCリーグ時代に知った水島樹人くんご家族のこと、そして16日に急逝された入団時からの恩人・川村隆史コンディショニング担当を偲びました。もっと生きたかったはずの故人に想いを馳せ、渡邉投手はこれからも日々全力で腕を振り続けてくれることでしょう。

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