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引退撤回します! ホークスの謙虚な22歳・大本将吾は“決断”の先に何を見る

文春野球コラム クライマックスシリーズ2020

2020/11/16
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謙虚過ぎる大本選手が野球選手として殻を破るキッカケに

「今年クビになったら野球は辞めよう」と覚悟を決めて挑んだ今シーズン。昨オフも覚悟はしていましたが、首の皮一枚繋がりました。同期の戦力外、退団を間近で見てきて、どこか戦力外通告を恐れながら野球をしてしまうところもありました。悩んでいた時、担当スカウトの福元淳史さんに「ダメだったらそれまで。命までは取られないから」と声を掛けられると、良い意味で割り切って考えられるようになりました。

 気持ちが楽になると、自然とプレーにも良い変化が表れました。今春キャンプでは「良くなったな」と声を掛けられることが増えたと話していました。

 引退を撤回し、トライアウト受験を決断したことを家族に報告すると、お母さんは笑ってくれたと言います。息子の気持ちを尊重しながらも、やはりどこか寂しい気持ちがあったに違いありません。両親が喜んでくれたことも大本選手の更なるモチベーションになりました。

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 頑張り方やモチベーションは人それぞれだと思います。“育ってきた環境が違うから~”と山崎まさよしのセロリじゃないですが、謙虚でネガティブで現実的で……ちょっとプロ野球選手っぽくはないけれど、これが大本選手らしさなのかなと思いました。闘志溢れるタイプの選手もいれば、静かに燃えるタイプもいる。大本選手みたいな個性があってもいいじゃないか。

 たしかに、評価するのは他人だし、評価されなければプロの土俵にも上がれない。誰が見ても頑張っているのがわかる人の方が評価しやすいし、「もっとガツガツやれよ」という人も当然います。私もそう思いがちでしたが、彼が胸の内を話してくれたことで、みんな心の中で、一人で自分なりに戦っているんだなと感じました。

 背伸びして大人な考えをしようとしなくていい。そんなに強がらなくていい。同期入団の選手たちと比べてどこか落ち着いていて、大人びている大本選手だけど、まだわがまま言って自分の夢を追いかけていいんだよって三十路の私は思います。やるのも辞めるのも決断するのは最後は自分。素直な気持ちで自分に問いかけて欲しい。そして、出した答えがこの「再挑戦」ならば、全力で応援します。

 ある意味、引退表明が彼の転機になったように感じます。

 大本選手は「自分が思っているより、周りの方は自分に期待して下さっていて、こんな選手ですけど、本当にたくさんの方に支えてもらっているということを改めて感じることが出来ました。その方々にせめてもの恩返しの気持ちで全力で頑張りたいと思います」と噛み締めるように語りました。

 謙虚過ぎる大本選手が野球選手として殻を破るキッカケになるかもしれません。野球選手としてのポテンシャルは計り知れないものがあります。「速い球を打てるタイミング作りが出来れば、開かない打撃ができ、遠くに飛ばせる個性が生きる」と今季まで2軍打撃コーチを務めた名コーチ・新井宏昌さんも潜在能力を認めています。もしかしたら、気持ちの面で覚醒を邪魔してしまう弱さがあったのかもしれません。でも、たくさんの人にパワーをもらった今、大本選手は強いです。一度終わった野球選手としての道をもう一度、自らの力で切り開いてきてください。トライアウトは12月7日。がんばれ、大ちゃん! 応援しています。

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