「いつもよく説明するのは子供の頃に作った泥団子」
下に固まった黒土を掘り起こして砂とかき混ぜる。まさに文字通り天地返しだ。掘り起こして乾かした後はフカフカの布団のようになるという。一度寝てみたい……。
この作業だけでも相当大変そうなのだが、金沢さんによると最も難しいのは掘り起こした後だという。「耕すのは機械があれば耕せますけど、固めて野球のグラウンドに仕上げていくまでの作業っていうのが肝というかすごく難しいんです」。せっかく掘り起こしても、ローラーで固めるタイミングを間違えてしまうと水捌けの悪いグラウンドになる。「雨がどんだけ降るかによって次の日に触れるのか3日後に触れるのか。雨量が大事ですね。天任せです! このくらい降ったから今日このくらいの気温で日照だからこのタイミングでローラーで固めようかっていうことですね。そのタイミングが一番大事なんで」。雨量、気温、日照。三拍子そろった日が絶好のチャンス。しかし、3割30本30盗塁!のように指標となる数字は一切ない。固める作業のゴーサインは“経験”に基づく。
「いつもよく説明するのは子供の頃に作った泥団子。グラウンドの土を泥のようにして乾かすと固まるんですけど、その状態にすると水を吸わない。今思うとその時の感覚だなっていうのがあるんですけど。水の加減をあの面積とあの深さで手で作業できるはずがないので、自然の雨の、雨量をみてこれぐらい蒸発していったらあの時の水加減だなという経験のもとでローラーで固めるっていうことなんですよ。原点は泥団子」
金沢さんは幼少期から泥団子を作るのも得意だったと笑うが、肌で覚えた感覚こそが成せる職人技なのだ。雨量が少ないと転圧してもしっかり固まらない。「作業をしない」のも大事な仕事だという。「雨を待って何日間か作業しない日もあったりとか。雨は『もういいわ』とか『もっと降って』って言ってもいうことは聞いてくれないんでね。降るんを待って、雨上がりを待って何ミリくらい降ったんやなって、で今日の気温はこうだなって足を踏み入れて『今これで固めると逆に水が含みすぎているな』とか」
雨降って地固まる。園芸さんの職人技と雨との共同作業で誰もが憧れる甲子園球場のグラウンドが出来上がっている。壮大な作業の話を聞くと、簡単に「イレギュラーした」なんて言葉は使えない。真冬の寒い時期から園芸さんが作り上げた美しいグラウンド。画面越しに、その想いを感じてほしい。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2021」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/45099 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。