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キャッチャーの重要性が分かる「推しカメラ」

 2つ目は、解説者や視聴者のリクエストをもとにカメラマンのカメラアングルを自由に操作できること。これは今年から始まった試みで、その名も「推しカメラ」。その名の通り、推し選手をアップで撮ってくれるという機能だ。

 冒頭で述べたような牧選手の表情だけを映してもらうことも可能で、どのタイミングでどこへでもカメラを操作できる。この機能のおかげで、大和選手の華麗な守備がどのように生まれているのかを、打球が飛んでくる前の準備段階から観ることができる。セカンドを守っている柴田選手と何やら会話をして守備位置を調整している様子や、ピッチャーが投球モーションに入った際にどれくらい深く屈んで打球に備えているかという玄人すぎる視点から野球を見ることができる。さらに、イケメンすぎる神里選手の顔をただただアップにするだけの時間も存分に取れる(実際、私は神里選手を初めて生で見た時、息が止まるくらい男前だと感じたため、推しカメラをいつも神里選手に合わせてもらう)。

 このカメラ、先ほどのチャット機能を使い、ファンの方からのリクエストも存分に取り入れる。自由に動く推しカメラに加え、ブルペンの固定カメラに視点を切り替えることも可能で、「今、ブルペンは誰が投げてますか?」というファンの方のメッセージに応えブルペンカメラに切り替えると、準備中の山﨑康晃選手の投球練習を観ることができる。

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 この推しカメラで改めて思うことは、キャッチャーというポジションの重労働さである。伊藤光選手の目の動きは、見ているだけで目が回りそうなくらいあちこちを見ている。これは私自身もキャッチャー出身だったためよく分かる。ピッチャーの表情、バッターの表情、見逃した時の前の肩、体の反応、ランナーの動き、味方野手の守備位置、風の向き、相手ベンチの雰囲気、三塁ランナーコーチの出すサイン、自分のベンチから出る指示、ネクストバッターサークルの打者の表情、スイング、おおよそこれらを、“毎球“チェックしている。それに加え頭の中では、配球を考えている。ただ配球といっても、抑えるだけが配球ではない。ピッチャーの将来性、相手バッターやチームへの伏線など、あえて打たれることさえ選択肢に入れて、最終的に一つの球種に絞られる。頭をフル回転しつつ、プロのピッチャーの投げ込むボールを確実に捕球し、場合によっては盗塁を阻止し、ワンバウンドのボールは体を張って止める。これだけの作業を、1試合平均120~150回ほど行うのだ。いかにキャッチャーが大事なポジションかが分かる。

これ以上ないゆるさで展開している実況と解説

 3つ目は、実況と解説がこれ以上ないゆるさで展開していること。視聴者はファンクラブからチケットを購入された方のみというクローズドな環境ということもあり、解説者にとってトークの自由度が非常に高い。そのため、「崎陽軒のシウマイ弁当は何から食べるか?」という横浜市民にとって共通かつ重要な話題を、試合中に展開したこともある。これが意外と盛り上がり、空気の読めるカメラマンさんが右中間のフェンスに書かれた「崎陽軒」の文字をアップにしたりと、やりたい放題。さらには投票機能を使って、何から食べる派が多いのかという集計を取り始める始末。野球の観戦はどこにいったんだ。そうこうしているうちに、牧選手が崎陽軒の文字の書かれた右中間フェンス直撃のヒットを放ち、推しカメラは一時「崎陽軒カメラじゃん!!」とチャットが大盛り上がりしたこともある。

 試合後はその試合のヒーローに出演してもらい、オンラインハマスタの視聴者に向けてメッセージをもらうこととなっている。崎陽軒トークで盛り上がった日、大活躍をした桑原選手が試合直後に出演してくれた。そこでダーリンハニー吉川さんが投げかけた質問は、「桑原選手はシウマイ弁当はなにから食べる派ですか?」という聞かれる側からすると唐突すぎる質問。戸惑いながらも、「あの、ちょっと甘酸っぱいやつあるじゃないですか。僕はあれからっすね~」と答えた瞬間、チャットは「まさかの杏派!!」とまたもや大盛り上がり。こんな緩いトークが展開できるのも、オンラインハマスタならではの魅力といえよう。

 もちろん、緩い話だけではなく真面目な解説も行う。そこでは、自由に動かせるカメラと、視聴者からの質問などを駆使することで今までにない解説を届けることが可能となっている。それは、今までにない野球観戦の価値を創造している。新型コロナウイルスの流行により、あらゆることが制限付きの世の中になった。しかし、だからこそ生まれるこのような新しい形のエンターテイメントは、コロナが明けても是非続いてほしいと思う。(ちなみに、9月9日はオンラインハマスタが開催され、私は解説者として出演します。ベイスターズファンの方、ぜひ遊びに来てください)

9月9日のオンラインハマスタに出演します ©高森勇旗

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