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3番に入った紅林は明らかに別人に進化していた

「正尚がいない間、3番打者は紅林でも面白いかもしれないね。それだけの何かを今の打席で紅林は感じさせてくれたよ」

「えー? 全然打たないじゃんベニー。無謀じゃない??」

「中嶋さんならやるかもしれないよ。あの人ちょっとどうかしてるから(笑)」

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 奥様とそう話しながらテレビの電源を落とした。

 そのわずか1日後、本当に中嶋聡は紅林弘太郎を吉田正尚の代役に抜擢した。前日8番を打っていた19歳の少年を3番に据えたのだ。優勝争いのまっただ中で。僕はスタメンを見た時、鳥肌が立った。「この指揮官は本当にどうかしちゃってる。恐るべきリーダーだ。僕は中嶋オリックスの旅路を絶対に最後まで見届けよう」そう思った。

 3番に入った紅林は明らかに別人に進化していた。それはファン全員が感じていると思う。

 あの9月15日最終打席の17球で紅林の内面に何が起こったのか、いつか機会があれば是非聞いてみたい。それを見逃さなかった中嶋聡の観察力については敬服するしかない。

 山崎颯一郎や紅林弘太郎が抜擢された後もオリックスの苦境が完全に改善されたわけではない。それでもT-岡田の復活2ホーマーや杉本裕太郎の決勝ツーランなどオリックスはチーム一丸でファイティングポーズを取り続け貧打に苦しみながらも優勝戦線にとどまり続けた。そして9月28日、監督もチームメイトもファンも全員が待ち続けた主砲・吉田正尚がスタメンに帰ってきた。スタメン復帰初戦が5得点。2戦目が15得点!! これまでの貧打が嘘のように得点が入る。これぞプロ野球界現役最強打者の存在感! それは間違いない。でも現地で観戦して強く感じたことがある。

 吉田正尚不在の24日間は中嶋オリックスという若き戦闘集団を苦しめもしたが、徹底的に鍛えてもくれたのだ、と。

 プロ野球人生で初めての優勝争いの中で苦しみ抜いた若きバファローズ戦士たちが主砲の帰還と共に再び躍動し始めている。その姿のなんと頼もしいことか。

 残り19試合、その結末はまだ誰にもわからない。走攻守全てに鍛え抜かれたマリーンズの完成度の高さ、投打共に百戦錬磨が揃うイーグルス、1年間苦しんだが怪我人が戻った絶対王者ホークス、油断できる試合など1試合たりともない。でも秋が深くなってもまだプロ野球を楽しめている幸せを噛みしめながら2021年中嶋オリックスの冒険を全国のバファローズファンの皆さんと最後まで見届けたい。今、それだけを強く思っています。

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