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ライオンズファンが初めて見る“最下位”の景色が思いがけず心地よい理由

文春野球コラム ペナントレース2021

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2022年の埼玉西武ライオンズは「ほんとのファン」気分で楽しい

 かの野比のび太氏はこう言っています。「ほんとのファンなら、落ち目の時にこそおうえんしなくちゃ」と。42年ぶりの最下位となった埼玉西武ライオンズが落ち目であることは間違いありませんから、落ち目なのに来季も応援している自分は「ほんとのファン」ということになるでしょうか。弱いときも負けているときも応援する自分に酔えるというのは悪くありません。「僕、最下位なのに応援してるんです」「最下位だけどやっぱり好きなんだよね」「最下位のチームを応援してるなんて愛だなぁ、愛」とか大声で言ってまわりたいような気分です。

 この経験は、来季はもちろん、未来まで残る価値となります。死ぬ間際に「わしゃあ、42年ぶりの最下位になったあとの2022年も埼玉西武ライオンズを応援しておったんじゃよ……」「その後もずっと最下位じゃったが、ずっと応援しつづけたほんとのファンなんじゃよ……」「今はミクシィライオネルズになっておるがの……」と言えたら、遺族もほんとのファンと思うしかないですよね。戒名には「獅子」の2文字が入ってやたらカッコよくなり、棺も西武関連グッズで埋め尽くされることでしょう(※決して体のいい焼却処分ではなく)。

 そして、「落ち目の時」であるからこそ生まれる一体感というものもあるでしょう。

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 今季の埼玉西武ライオンズは「SDGs」というテーマをもって球団運営に臨んでいました。しかし、「SDGs」をテーマとした夏のイベントはチームの弱さもあって熱狂を生み出すことはなく、イベント用に製作したレインボーカラーの「彩虹ユニフォーム」にはSNSを中心に「ダサい」「最高にダサいというほどではない」「ダサいが私は好き」などの賛否両論の声があがりました。ついには「ボールパーク構想」などの、観戦価値を高める勝ち負け以外のあらゆるものに対して「負けたら意味ないんだよ」的な怒りをぶつける向きも生まれました。

 しかるに来季は、「42年ぶりの最下位」となった落ち目のチームなわけですから、全方位において「最下位からの挑戦」という大きなテーマを掲げて臨むことになるでしょう。実際に勝つかどうかはともかく、勝利その一点を目指して臨むシーズンは、分断を埋め、一体感を生むはずです。勝ち負けにはこだわらない人も、負けたら面白くない人も、「勝利を目指す」ことについては異論はないはずですから。

 最下位まで沈んだからこそ、すべてを一旦白紙にして、「勝利を目指す」というシンプルな原点に立ち返れます。勝つことが当たり前になれば「勝つだけではなく付加価値を」という気持ちにもなりますが、来季の埼玉西武ライオンズはシンプルでよいのです。SDGsでは生まれなかった一体感が生まれる、そういうシーズンとなるでしょう。勝って対戦相手の息の根を止めれば、結果として二酸化炭素排出量も減るはずですしね。

「最下位ダメチーム」から始まる物語が一番面白い

 このように楽しみな気持ちになれるのは、「42年ぶりの最下位」のおかげ。最下位がつづけば下から見上げることにも飽きるのでしょうが、とにかく初めての体験ですのでワクワクする気持ちがあります。何なら最下位記念グッズでも作って欲しいくらい。六の目しか出ない最下位サイコロとか。重箱の下段だけ(ふたナシ)とか。沈んでからの飛躍を期待してトランポリンとか。

 ここ数年は、シーズン終了から数週間はCSの勝ち負けに胃を痛くし、負けてうなだれる日々でした。日本シリーズさえも「ウチに勝ったソフバンが負けたら余計に腹が立つ」という気持ちで落ち着きませんでした。しかし、最下位ともなれば「みなさまお強い」という清々しい気持ちしかありません。

 結局、自分を苦しめるのは自分自身です。「強いはずなのに負けた」「勝てたはずなのに負けた」と弱さから目を背けるから、結果を受け入れられず身悶えるのです。「最下位で一番弱い」のだと認めれば、負けは仕方ないものとなり、勝ちは一層の喜びとなります。42年ぶりに得た「埼玉西武ライオンズは最下位で弱い」という気持ちを大切にしたいもの。この気持ちが風化するまでは、シンプルで清々しいシーズンを過ごすことができるでしょうから。

 オリックス・バファローズの25年ぶりの優勝と同じくらい、埼玉西武ライオンズの42年ぶりの最下位は価値があるものだった、心からそう確信しています。

 あまたの野球漫画が虚構なのにわざわざ「最下位ダメチーム」からスタートするのは、ここから先の展開が猛烈に面白いということですからね。歓喜のフィナーレまで25年くらいかかる長期連載もアリだと思います!

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