近年先発投手陣、特に左投手不足に悩む西武にあって、ドラフト1位の隅田知一郎とともに救世主として期待されているのが同じルーキーの佐藤隼輔だ。
昨年秋にわき腹を痛めた影響でドラフトの指名順位こそ2位となったものの、レベルの高い首都大学野球一部でリーグ戦通算防御率1.55を誇り、2年春から大学日本代表にも選ばれていた実力者である。ここまで4試合に先発して1勝3敗と負けが先行しているものの、直近の2試合は5回を2失点(自責点1)、6回0/3を2失点(自責点2)といずれもしっかりと試合を作っており、今後もローテーションの一角として期待できそうだ。
そんな佐藤の経歴は公立の進学校である仙台市立仙台高校から筑波大という、プロ野球選手としてはある意味異色のものである。
筑波大の野球部は甲子園に出場した選手も所属しているが、全体の割合からすると圧倒的に少数派であり、大半が佐藤のような進学校出身の選手だ。また体育専門学群に所属している選手も多く、スポーツ科学を専門的に学ぶ土壌ともなっている。実際に佐藤自身も卒業論文で自身のフォームについて研究し、それによって見直せた部分も多いと入団交渉の際に語っている。
野球のあらゆる動きを「数値化」
そしてここからが今回の本題である。
最近ではプロの球団も積極的に選手の動作解析に力を入れていると報道されているが、具体的には一体どのようなことを行っているのだろうか。言葉では知っているものの、実態はよく分からないという野球ファンが大半ではないだろうか。
筆者は三重大学教育学部を卒業した後、筑波大学大学院の体育研究科で2年間動作解析について研究をした経験がある。今から20年近く前のことであり、当時とは当然変わっている部分もあるが、基本的な考え方は現在も同じはずである。
そこで今回はそんな野球の動作解析について、簡単に紹介したいと思う。
スポーツの動作解析を専門に行う分野をスポーツバイオメカニクスと言い、バイオメカニクスを日本語に直すと「生体力学」となる。要はあらゆるプレーの動きを速度、角度、力といった物理的な指標で表し、分析、解析することである。
物理と聞くと途端に難しいと思う方も多いかもしれないが、投げるボールのスピードや大谷翔平の活躍ですっかりおなじみとなった打球の速度、角度といった野球ファンに馴染みのあるものも重要な指標である。簡単に言えば、スポーツ、野球の動きに関するあらゆるものを数値化すると考えてもらえば良いのではないだろうか。
では野球の動きは何から分かるのかというと、当然映像となってくる。しかし普段テレビ中継などで見ているものは一方向からしか撮影していないため見えない部分も多く、二次元での座標データしか得られない。
また通常のビデオカメラでは1秒あたりに撮影できるコマ数も多くなく、バットヘッドなど速い動きでは正確なデータを得ることができない。そのため、まずはハイスピードカメラと呼ばれる多くのコマ数を撮影できるカメラを用い、2方向以上から撮影することがスタートとなる。