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劇団獅子、復活の真相

 レギュラーシーズン最終戦の劇団獅子を覚えているだろうか。劇団獅子に関しては岩国誠さんのコラムをぜひお読みいただきたいのだが、辻監督の名前が球場にコールされ映し出されたのは、辻監督と指揮官を取り囲むコーチ陣の姿だった。その舞台裏を辻監督が教えてくれた。

「その日の練習の前のミーティングで、僕からコーチにお願いしました。選手は一人ひとりビジョンに映し出されることがありますけど、コーチ陣はなかなかないじゃないですか。最終戦ということで、『超満員のファンにみんな集まって感謝を込めて挨拶しようよ』と話をして。コーチ陣は『わかりました』と。監督が言ったら嫌とはいえないでしょうけど(笑)」

 実は、最終戦での劇団獅子復活を監督に提案したのは、ライオンズファンであり、監督のアドバイザーにもなってくれる息子・ヤスシさんだったと言う。「今までやってきたんだから、何かやったら」と言われ、前日の夜に考え、決めた。

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 ファンへの思いを辻監督はこう続けた。

「指導者・監督になって一番感じたところがファンのことだったんですよね。ベルーナドームで戦う試合はファンの力が大きくて、ここでやると本当に勝率がいいんですよ。本当にピンチであってもそうじゃなく感じるとか、つくづくファンの声援の大きさを感じます。だから、常に何か感謝の気持ちを伝えられないかなとは考えているんですよ。レギュラーシーズン143試合熱い応援をありがとうございますと感謝の気持ちを込めて、みんなで手を振ったんですけどね」

 予期せず見られなくなった劇団獅子の粋な復活は、ファンの心をわしづかみにした。あの演出を生み出したのは、一番そばにいるファンの言葉であり、監督からコーチへの労いであり、ファンへの感謝の気持ちだったのだ。

64歳の誕生日を「ここ」で迎えたい

 今年のライオンズは本拠地ベルーナドームで41勝27敗と、14の貯金を作ってみせた。ファンの応援に対し、必死に戦い続ける選手に代わって感謝を伝えたかった。

 だから、もう一度ベルーナドームに戻って試合がしたい。レギュラーシーズン最終戦のあいさつで、「クライマックスシリーズ、死ぬ気で戦ってきます」とファンに誓った言葉の裏には、強い想いが込められていたのだ。

 そのための道、それは日本シリーズ進出しか残されていない。

 かつての西武球場での日本シリーズに思いを馳せ、監督は語る。

「最初に打席に立つドキドキだったり、守備に就いてボールが飛んでくるまでのドキドキだったり。ここで、西武球場でやったときに、『開門です』とアナウンスされてセンターから両サイドにお客さんがバーッと走ってくる、ライオンズの応援歌に乗せて入ってくるその光景を見るだけでもゾクゾクっとするようなね。あれはもう、味わってみなきゃわからないですよ」

 それを選手に味わわせてあげたい。選手と一緒に味わいたい。一日でも長く、ここで野球がしたい。

 そして、我々ファンはその日本シリーズの舞台に監督として立つ辻発彦の姿が見たいのだ。

 辻監督は、仮に日本シリーズ進出となれば、シリーズ中に64歳の誕生日を迎えることになる。10月24日、試合のない2戦目と3戦目の間の日だ。現役時代は日本シリーズの最中に誕生日を迎えることも少なくなかったが、1990年にはジャイアンツとの日本シリーズを4戦4勝で制し、その日に日本一になった経験もあるそうだ。今年は「日本一決定」の日とはならないが、ドキドキした誕生日を過ごしてほしいと願う。

 インタビューの最後、辻監督はファンへの言葉をこう締めた。

「しっかり戦って、日本シリーズをこのベルーナドームでファンの皆さんと一緒に戦えるように。またわくわくするような試合をしたいと思っていますので、ちょっと福岡、大阪と行ってきますけども、しっかりと応援していただきたいと思います。がんばります」

 辻監督、必ず戻ってきてください。ベルーナドームで、我々ファンはお待ちしています。

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