勇気が湧き出てくる「髙津監督の言葉」

 2020(令和2)年に一軍の指揮を執ることが決まって以来、定期的に髙津臣吾監督にインタビューを続けている。ペナントレースと同時進行で、そのときどきの思いや考えについて質問し、その狙いや意図を監督自身の言葉で説明をしてもらっている。

 この夏は、過去3シーズンにわたって行われたインタビュー連載を書籍化する作業に没頭していた。その成果が、クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージが開幕する本日12日に、『明るく楽しく、強いチームをつくるために僕が考えてきたこと』と題されてアルファポリスから発売されることになった。

 いささか、自画自賛めいていて恐縮だけれど、ダントツ最下位に沈んだ20年シーズンから、昨年の日本一達成、そしてセ・リーグ2連覇を果たした今シーズンまで、髙津監督の言葉が時系列でまとめられており、チームが歩んできた道のりを再確認し、「髙津流チームマネジメント」の秘密を知るにはもってこいだと思う。

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 この夏、過去3年間のインタビュー音源を聞き直し、文字起こし原稿を読み直していて、改めて「髙津監督の言葉力」に唸らされた。この本の巻末に収載された拙文「解説 理をもって接し、情をもって交わる」にも書いたけれど、その内容は「言葉の力」にあふれていた。滑舌がよく、言いよどむことがほとんどないのだ。もちろん、ただ流暢に言葉が口から出てくるというだけのことではない。彼が言いよどむことがないのは、自分が口にすべき内容をきちんと自分自身で吟味し、把握しているからなのだろう。

 そこにいたるまでには、相当の自問自答がなされているはずだ。自分自身と向き合い、自己の内面と対峙することで考えがクリアになっているからこそ、インタビュアーの質問に対して、理路整然と回答することができるのだろう。毎回、毎回、監督の話を聞くのは楽しかった。

髙津臣吾監督 ©時事通信社

 監督の言葉の力が最大限に発揮されたのが、昨年の9月7日、ペナントレース中に発した「絶対大丈夫」だ。前掲書において、髙津監督は、その意図を次のように述べている。

 まずは「勝って浮かれることなく、負けて尻込みすることなくあろう」ということを伝えたかった。その上で「常に前向きに予習をして復習をして、明日も頑張ろう」ということを伝えたかった。

 こうした思いを込めたのが「絶対大丈夫」という言葉で、僕なりの表現だった。

感動的だった「引退セレモニーでの惜別の辞」

 以前、髙津監督に「言葉の持つ力をどのように考えているのか?」と尋ねたことがある。そうだ、あれは野村克也さんが亡くなった直後のインタビューだった。再び、前掲書から引用したい。

 特に言葉の重みは痛感している。プロ野球の世界に入って以来、僕は言葉で育てられたと思っているから、言葉の重要性はもちろん強く感じているし、身体も心も動かすことができるのは「言葉」だと思っている。

 さらに、こんなことも言っている。

 言葉は武器であり、力になる。言葉一つで人をやる気にさせたり、逆にダメにさせたりできる。軽はずみなひと言が取り返しもつかないことになるかもしれない。ほんのひと言が人生を好転させるかもしれない。だから、言葉は武器であり凶器であり、意識して使わないといけないのだ。

 こんな考えを持つ監督だからこそ、毎回のインタビューはとても興味深いし、選手たちもまた意気に感じ、戦う気持ちを奮い起こされるのだろう。

 今季、「髙津監督の言葉力」が発揮されたのは、10月3日のシーズン最終戦終了後の引退セレモニーではなかったか? この日を最後に内川聖一、坂口智隆、そして嶋基宏がスワローズのユニフォームを脱ぐことになった。このとき、髙津監督は去りゆくベテラン選手たちに向かって、胸に迫る言葉を述べている。

 内川に対しては、「あなたのバッティング技術、相手投手、相手ベンチを相当驚かせたと思います」と述べ、数々の偉業を紹介した後に、「記憶にも、記録にも残る大打者だったと思います」と結んだ。

 坂口に対しては、「何となく昭和感の残る、痛くても痛いと言わない男。しんどくても歯を食いしばってプレーする姿は、我々が若手に指導するよりも何よりも、若い選手の刺激になったと思います」と述べ、近鉄バファローズ最後の選手としての労をねぎらった。

 そして、嶋に対しては、彼が師事した野村克也、星野仙一両監督の名前を挙げ、「今、天国で心からあなたに拍手を送っていると思います」と述べた後、「あの名言」を例に挙げて、「嶋、みんな見てましたよ、あなたの底力を!」と別れの言葉を述べた。いずれも、自分の言葉で素直な思いを述べて、去りゆく選手たちだけではなく、集まったファンの胸をも強く揺さぶったのだ。