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あらためて感じた一流選手の「強さ」

 彼を奮い立たせる要因として、チームメイトの存在も大きかった。大貫、今永両投手が好投を続けていたので、それに食らいつきたいという思いもあったそうだ。特に、今永投手の翌日の登板が多かったので、左投手同士、共有しあえることも多かった。今永投手が好投をして、そのいいイメージをそのまま自分にも当てはめるようにしたという。

 キャンプからチームとして取り組んできたことがなかなか体現出来ず、結果も出ず、体調も思うように行かない、いつ心が折れてもおかしくないような状況であった。そんな状況から、自分に勝ち、ライバルに食らいつき、相手に勝つ。漫画の主人公のようなシーズンを過ごしている彼は、こうも話してくれた。

「クールなように見える振る舞いも、特に何も意識してません。ただ自分のやることに集中した結果ですね。試合前の囲み取材でも同じことを言い続けてました。首位ヤクルトとか、相手チームの◯◯選手とか、考えても邪念にしかならないので、あえて考えないようにして、とにかく自分自身に集中しました。そしたら、一喜一憂もしなくなったので、もしかしたらクールに見えるのかもしれません」

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 一通り取材を終えて、私は一流選手の「強さ」をあらためて感じていた。土壇場であえて今までの考え方を変える強さもそうだし、大変な状況を周りに悟らせない強さも勉強させてもらった。

濵口と筆者 ©寺田光輝

 濵ちゃんとはよく釣りに行ったりカラオケに行ったり、私の地元にある伊勢神宮を観光したりと、なかなか色々な時間を過ごした。カラオケに行けば、マイクを使わなくても十分すぎる声量で歌い上げ、釣りに行けば、たとえ一匹も釣れなくても「こんな日もあるでしょ!」とまるで気にしないような様子である。オフシーズンは、私が所属した独立リーグ時代の後輩達とご飯に行ってくれた事もあった。ご飯が終わる頃にはみんな濵口投手のファンである。私はそっちのけだ。

 それ以外の日常でも、顔を合わせれば「てらちゃん、元気? なにしてんの?」と、人懐っこい笑顔で話しかけてくれる。そんな日々が懐かしい。しかしそんな時間の中で、野球についてここまで深入りして話を聞いたのは初めてだった。普段の彼は、先述の通り、いたずらっ子のような明るい感じで、思い詰めるようなタイプではないんだろうなと思っていた。

 チームメイトとして過ごした2年間、練習や試合の時でさえ、彼はそれを感じさせなかった。しかしそれは、とんだ見当違いで、それを表に出さないようにしていただけであった。濵ちゃんの中にある責任感、チームへの想い、プレッシャー、普段の濵ちゃんのイメージとは少し違った、アツい思いを感じることができた。風向きはいきなり変わることもある。いや、変えたのは彼自身だ。ベイスターズはCSで激アツの展開を見せてくれるだろう。その中で、濵ちゃんが輝く瞬間を楽しみに、私は勉学に励もうと思う。

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