王道より、「じゃない」方がいい
人生観と言うと、少し大げさかもしれない。「好み」や「考え方」と言い換えてもいい。
「僕、『じゃない方』が好きなんです」
隅田からそんな話を聞いたのは、西武からドラフト1位指名された直後の、2021年10月末だった。
北九州市の西日本工大キャンパスで行った1時間ほどのインタビュー。小さい頃に好きだったプロ野球のチームに話題が及んだときだった。
長崎県大村市出身の隅田にとって、なじみがあるのは、もちろんソフトバンクだった。
テレビをつければ、ホークスの試合が放送されていた。が、隅田が応援したのは、ソフトバンクではなかった。応援するチームは、その時々で変わったという。
荒木雅博、井端弘和の「アライバコンビ」が台頭して強くなった中日、「神ってる」と言われた鈴木誠也の成長とともに強くなった広島……。
共通しているのは、伸び盛りの看板選手がいてチームが強くなる、という点だった。
「巨人やホークスは『王道』じゃないですか。ぼくは『じゃないチーム』が強くなっていくのが好き。王道は応援する人が多いから、それを逆視点で見たい。上がっていくチームって、若い選手が活躍するじゃないですか。そういうのを応援したくなるんです」
振り返れば、隅田の野球人生も「じゃない」ことの方が多かった。
小学生の頃は、人数の少ないチームで、左利きながら三塁手や遊撃手も守った。
波佐見高(長崎)時代は左ひじを骨折してリハビリの期間が長かった。最後の夏にぎりぎりで間に合い、甲子園には出たものの、初戦で負けた。投手として、全国では無名の存在だった。大学も、野球では名が知られていない西日本工大。ここで地道に力をつけた。
そして不本意ながら、プロ1年目の成績も、ドラフト1位の選手としては「じゃない」ものとなった。
389日ぶりに勝利をつかみ、「逆襲」へ
ただ昨年、どれだけ負けが続いても、隅田の心は折れなかった。その目はいつも、前を向いていた。シーズン後のインタビューでは、1年目の悔しさについて、こう話した。
「土台じゃないですかね。1年目があったから、どんどん上ができていったと。ベースになるというか。いいことも悪いことも、1年間で本当に色んなことを経験できた。それを試合中でも、振り返りながらというか。あ、ここはこうだったなとか、こうした方がよかったなとか」
「僕としては、これ以下の成績はないと思っている。これがどん底だと思ってやるだけだと思う。2年目から毎年、キャリアハイになっていくだけだと思います」
西武は今季、攻守の要だった森友哉捕手がオリックスへ移籍した。前評判は決して高くない。評論家の方々の予想では、ソフトバンクやオリックスの評判が高かった。
誤解を恐れずに表現するなら、隅田も西武も、今季は「(王道)じゃない」ところからのスタートと言っていい。
隅田が勝ち続けて、チームが浮上していけば……。それって、隅田自身が少年時代に憧れたプロ野球ではないだろうか。
「じゃない」からの下克上。担当は離れても、あの悔しい1年を見続けた記者として、隅田の逆襲を楽しみにしている。
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