森の姿に大いに刺激を受けている後輩たち
筑後のリハビリ組に合流して数日後、森投手に心境を聞いた。
「オフからずっとやって来て、開幕ローテというのは絶対狙いに行きたいと思っていたからこその2月1日の球数だった。そこは僕なりに準備もしてきたと思っていたので、怪我したことへの後悔はしてないです」
ショック、悔しさ……いろんな感情は察するに余りあったが、後悔がないほどやるべきことをやってきた上でのアクシデントだった。“森投手の107球”にはやはり今年への思いが溢れていた。リハビリ組に行ったとはいえ、森投手のその思いは変わることなく、早々に投球練習を再開。早期復帰を目指した。
リハビリ組の練習集合は朝10時だが、森投手は毎朝6時半頃には筑後入りし、“練習前の練習”や身体の準備に取り組んできた。スタッフ陣からも「さすが」の一言。そんな姿は、若鷹たちにとっても手本となっている。また、森投手がブルペンに入るとギャラリーがズラリ。後輩たちが熱視線を送る中、それも意気に感じて熱投を見せた。
中でも、昨年トミー・ジョン手術を受け、長いリハビリ生活を送っている育成の山崎琢磨投手は森投手の姿に大いに刺激を受けている。「森さんは常に野球のことを考えている」とプロフェッショナルな姿を近くで目の当たりにした。森投手がリハビリ組に来てからは、キャッチボールを共にしたり、助言を受けたり、何度か食事にも連れて行ってもらうなど可愛がってもらった。気付けば兄貴分のような存在となった森先輩の1軍先発が決まると、嬉しくてエールを送った。「頑張って下さいと連絡したら、『困ったことあったら連絡して来いよ』と言われたんです。森さんも大事な時なのに」と森投手の根っからの面倒見の良さに、山崎投手も一層胸が熱くなった。
日頃の練習からヒシヒシと伝わる覚悟とリスペクト
また、リハビリ担当スタッフ陣からも森投手への熱い言葉が聞こえてくる。森投手の人望と普段からの取り組む姿勢の賜物だろう。森投手はリハビリ担当スタッフ陣のことを「ハイパフォーマンスチーム」と表現し、感謝していた。その「ハイパフォーマンスチーム」の一人、リハビリ、ストレングス&コンディショニング担当の勝永将史さんは「森さんはめちゃくちゃ丁寧で、すごく繊細です。僕たちにもすごくリスペクトを持って接してくれる」と話していた。森投手の覚悟とリスペクトは日頃の練習からヒシヒシと伝わるものがあるのだという。
余談だが、森投手がリハビリ組に合流した時には、「よろしくお願いします」と「ハイパフォーマンスチーム」に差し入れを持ってきてくれたという。リハビリを卒業した時には「ありがとうございました」と糸島のバームクーヘンを差し入れ。時には美味しいフルーツサンドを持ってきてくれることもあったそうだ。当然、それが云々というわけではないが、森投手は自然にサラッとそういうことをする人なのだ。周囲への感謝の気持ちを常に持ち、真っ直ぐ感謝を伝える人なのだ。マウンド上での野獣感とのギャップが激しすぎやしないか!(笑) 知れば知るほど、森投手のことを応援したい気持ちは増す一方だ。
森投手は「大事な1週間。本当に無駄にしたくない」と1つの登板に向けていつも全力で準備をする。1軍の先発ローテーション争いの激しさを痛感しているからこそ、「1試合もミスはできない」と相当な覚悟を持ち、マウンドに上がっている。
今月20日の2軍オリックス戦でのこと。試合後、森投手は「今日とかだったらマジで……やっぱやめとこ」と一度発するのをためらったが、冷静になった上でもこんな言葉を口にした。「マジでまあ肘飛んでもいいわぐらい。怪我しちゃダメですけど、それぐらいの気持ちで行ってました。ファーム戦とはいえ、僕にはもう本当に数少ないチャンスだと思うので。やれることはしっかりやりたいなと思います」と言葉を紡いだ。聞いていて本当に胸が熱くなる瞬間だった。
森投手の熱い魂は、日本一を目指すホークスにとって欠かせないピースだと改めて感じた。次の登板機会がどんな形になるかはまだわからないが、森投手には森投手が築いてきた素晴らしい仲間達が付いている。ここぞの場面で力を発揮できる人間は、そんな優しい強さを持ち合わせている人だと私は思う。
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